3つのR
「お疲れ様でした、どうぞ入ってください、飲み物を・・・」
「え?いや、いいよ。これ返しにいかなきゃだし」
「でも、あの・・・」
言いかけた言葉は私の口の中で小さくなって消えていく。・・・迷惑、なのかな、そう思って。私がしつこくすると、彼は困るのかも。
急に勢いをなくして黙ってしまった私を、屈んで息をついていた龍さんが顔を上げて見た。それからまだ整わない呼吸のままで、自転車のスタンドを起こして安定させる。
立てた自転車にもたれかかるような体勢で、真顔で目を細め、彼が言った。
「――――――ほら、またそれだ」
「え?」
頼りない両手を思わず握り締めて、私は体を縮こまらせた。
「言いたいことを我慢してる。・・・こういう時は、強引なくらい誘ってくれた方がこっちも助かるんだよ。遠慮なしにお邪魔します~とは中々言えないもんなんだからさ」
「・・・あ、はい」
「それに実際は喉がカラカラで干からびそうなんだ」
汗だくの顔でニッと笑う。私はすうっと肩の力が抜けたのが判った。本当に、そうだよね、そう思って、今度こそちゃんと誘いの言葉を口にする。
「入ってください。お茶を飲みましょう」
「うん、ありがと」
さっきより更に大きい笑顔になって、龍さんが笑った。