3つのR
「・・・あ、はい。や、山神様?」
「ほら、居酒屋の神棚の」
頭の中に、午後に見た居酒屋の一番奥の壁がぼんやりと浮かび上がる。・・・ああ、確かにそんな名前だったな、そう思った。
「はい・・・山神様」
「チャリはちゃんと返して、持ち主がいるようだったら謝っとく」
「はい」
「――――――じゃあね」
ひょいと手を伸ばして、彼は私の頭に手のひらを乗せた。ぽんぽん、と二回ほど。それからくるりと踵を返して部屋のドアを開ける。
「・・・」
私はその大きな背中をじっと見ていた。熱があがりつつあって、視界は霞んでいた。その時すっと、心の中で自分の声を聞いたのだ。
―――――――――あ・・・あ、帰っ・・・帰っちゃう――――――――――
「あ――――――」
出たのは小さな声で、しかも呟き程度の掠れ声だった。一瞬伸ばしかけた腕をぐっと自分で押さえ込む。私ったら・・・何して・・・。
ピタっと動きを止めた龍さんが肩越しに振り返って私を見て、真面目な目を向けていた。