3つのR
「ええとー、右田さん、どうもありがとう。やっと目処がついたから、潤子の世話は私がするわね。今日一日妹がお世話になって感謝してます」
体全部を部屋に入れてから、姉は改まって龍さんに頭を下げる。彼はパッと立ち上がって、いえいえ、と返していた。
「俺が多少無理させてしまったと思うので。すみませんでした」
「あら、潤子にはいい気晴らしになったと思うから、そこは気にしないで。また遊びに来てください」
はい、と姉に頷いて、彼は振り返って私を見下ろす。
「じゃあ消えるよ。お大事に~」
ニコニコと手を振った。私も毛布の下から右手を出して少しだけ振る。いよいよ熱が上がっているらしくて、視界が霞みつつあったのだ。
あーあ、残念・・・折角格好いい男の人が、私に笑顔をくれているのになあ~・・・。ちゃんと見れないなんて。
・・・でも、楽しかったなあ~・・・。
姉が玄関まで彼を送って戻ってきたときには、私は既に寝てしまっていた。
沢山会話をして、風を受け、初めての場所へ行き、走ったりまでした。興奮して疲れた体は熱を出すことで私に休息を強制する。
だけど、いい気分だった。
だからぐんぐん上がる体温に揺られて、私は微笑んで眠っていたと思う。
いい気持ちだったのだ。ふんわりとした幸福感に包まれていて、瞼の裏には龍さんの笑顔。それから、古くて音がうるさい自転車、草の上を走るラッキー、小さな居心地の良い居酒屋・・・・眩しい太陽の光。
姉の言葉も聞こえないくらいの深い眠りに落ち込んで、私は一人で幸せに眠っていた。