3つのR
男性がそう言って微笑んだときに、私の足をくんくんと柴犬がかいでいるのに気がついた。人間よりは動物の方が得意だ、というと語弊があるけれど、少なくとも動物相手だと緊張はしない。
私はその小型の犬に手を差し伸べて小さな声で聞く。
「・・・こんにちは。君は、女の子?それとも男の子?」
当たり前だけど犬は答えない。その子が私の手をぺろぺろと舐めている間に、飼い主が答えた。
「女の子です。名前はクリ」
「ああ、毛色が栗に似ているからですか?」
「そうです。単純だけど・・・本当に栗色だなって思って」
その答えにあははと笑う。でもペットの名前はそういうものだろうなって思う。見た目や、特徴が名前やあだ名になるものだし。
「クリちゃん、いいねえ散歩してるのねー」
かなり人懐こい犬のようだった。彼女は尻尾をわさわさと振って飽きることなくぺろぺろ舐める。飼い主である男性が一度行こうと促したけれど、彼女は動かなかった。
「どうぞ」
私はベンチの端に移動する。彼は恐縮したように会釈をして座った。
中肉中背、どことなくスマートな感じがするけれど、この人はサラリーマンなのかな?あまりちゃんとした社会経験のない私は人間観察が得意でないのだ。人の外見から年齢や職業などを推測するには絶対的に経験が不足していて判らなかった。とにかく、その男性のちょっと掠れたような声は耳に心地よかった。