時は誰も待ってくれない 上
精一杯…。
確かに大学のこともバイトのことも大変で今の私にはまだ、精一杯だ。
「頑張り屋さんなのかなって思ってたんだけど時々見かけるたびに、悲しそうだから」
「悲しそう…?」
私が悲しそう?
久々に聞いたその言葉に私は胸が大きくはねた。
暮らしにはまだ完璧に慣れていないから精一杯だけど故郷を出ると同時に置いてきた中谷の存在がまだ、私にあるというの?

そんなことない。
中谷のことを忘れてなんかない。
でも今は中谷のことを考えてる時間もないくらい忙しいのに。
「でも高橋さん、笑うと可愛いよ」
ふっと笑う柴田さんを見ると一気に体が熱くなる。
この状況でそんなことを言われたのは初めてだったから…何ていうか、不意打ちで。
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