時は誰も待ってくれない 上
人通りは少なく、壁に持たれながら私は泣いた。
『悲しいね…』
悲しい。すごくすごく悲しい。
どうしてこんなにも悲しいんだろう。
この胸の痛みもこの涙も、中谷が突然姿を消したあの日の夜と全く同じだった。
こんなにも悲しいことはないと思ったあの夜と同じくらい苦しい。自分から断ち切ったはずなのに…。

それからどれくらいそこで泣いたのか分からないけれど人がこちらに歩いてきているのは顔を伏せていても気配で分かった。
急いで涙を拭いて歩きだそうとすると腕を掴まれた。
顔を伏せているせいで足元しか見えないけど男の人だということは分かる。
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