時は誰も待ってくれない 上
それでも泣く私を焦ったように優が聞く。
「体、どっか悪かったの?」
首を振る私に戸惑う優は掴んでいた私の腕を引き寄せて思い切り抱き締めた。
驚きで一瞬涙は止まったけどまた、少しだけ涙が流れる。
私の背中をなでてくれる手が優しくて温かくてこの手を私は手放そうと、傷つけようとしたのだと思うと涙は止まらなかった。
優、ごめんね。ごめんなさい。
私が私をわからない。
こんなにも温かいのに。
こんなにも優しいのに、私は優じゃない中谷を想って泣いていた。
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