時は誰も待ってくれない 上


『高橋…』

あ、まただ。

誰かが私を呼んでる。
静かに目を開けるとそこは今朝の夢と同じ白い空間が広がっている。

『高橋』

声がした方に顔を向けると人が立っている。

「誰…?」

逆光で顔が見えない上になぜかその世界は滲んでいてはっきり見えない。

『高橋…』

でもその声は聞いたことがある。
すごく、すごく心地よく耳に響いて私が愛おしいと思う声。
でもその声はだんだん遠のいて離れていくようで私は走る。
今朝見た夢と同じだ…。

『高橋』

「待って…行かないで」

どんなに走ってもその影は光の中へ消えていく。
待って…お願い…
どうしてその影を追いかけるのかどうしてこんなにも悲しいのか分からないまま私はその声を追う。

『高橋』

あぁ、この声が好きだ。
「行かないで…中谷」
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