時は誰も待ってくれない 上
「…」
「その人は誰かなのかは分からなかったけど…どこかに行っちゃったの」
急に明るくなった視界に中谷が私の顔から袖を離したのが分かった。
オレンジ色の教室で夕日の光に照らされた中谷が綺麗に思えた。黒髪なのに髪の輪郭はオレンジ色に輝いていて顔にできた影が綺麗な顔をさらに綺麗にうつしだしている。
でも瞳だけは悲しそうに私を見つめて揺れていてその瞳を見て私は泣きそうになった。

「どう思った?」
「え…?」
「その夢の中の人がどっかいったんだろ?」
「うん」
「どう思った…?」
「…すごく悲しくて悲しくて苦しかった」
「そうか…」
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