時は誰も待ってくれない 上
そっと唇に中谷の唇が触れた。
目を閉じて近くに中谷を感じる。
いきなりの出来事にただ中谷の顔を見つめる。
どうしてキスなんて…
なのにやっぱり嬉しくて泣きそうなほどに嬉しくて私は目を閉じる。

二人で手を繋いで帰り道を歩いた。
キスをしたということは両想いだって思っていいの?
それともただの気まぐれ?
無言で歩く二人の背中を照らす夕日は暖かい。
寒い筈なのに私の体は熱くて繋がれた手に意識が集中している。
私の家の前で沈黙を破ったのは中谷の方だった。
「ごめんな」
「え…?」
小さく呟いて私の手を離すと背を向けて帰った行った。

ごめんな

何が?
キスしたことが?
何がごめんなの?
どうして謝ったの?
全然分からない。
ただ最近の中谷はいつも悲しそうな瞳をして私を見る…。
どうしてそんな瞳をするのか、どうしていつもそんな瞳をしているのか。
一緒に歩いた帰り道でも中谷は悲しそうな瞳をして空を見つめていた。

なのに私を抱きしめたりキスをしたり手を繋いで一緒に帰ったり…。
嬉しくて嬉しくて仕方ない筈なのに私の心の中には何かが引っかかったような感覚で心から嬉しいとは思えなかった。
中谷と私はどういう関係なの?
中谷の心の中の私はどんな存在なの…?
< 47 / 186 >

この作品をシェア

pagetop