時は誰も待ってくれない 上
帰り道、家まで送ってくれた山下くんはいつもの山下くんに戻っていた。
「じゃ、風邪引くなよ?」
「わざやざ送ってくれてありがとう」
「いえいえ」
また優しい笑顔で笑って帰っていく山下くんの背中を見つめていると不意に振り返る。
そして小走りで戻ってくると私を強く強く抱きしめる。
「山下く…」
「お前は一人じゃないから…!」
「え?」
「泣きたい時は一緒に泣こうぜ」
そっと私を離すと優しく頭を撫でて「またな」
と言って帰っていった。
私は一人じゃないから泣きたい時は一緒に誰かと泣く。
私だけが悲しいんじゃない。
私一人が悲しいんじゃないんだ。
どんな理由かは分からないけど山下くんだってすごく悲しんでいた。