時は誰も待ってくれない 上
裏庭で突然抱き締められたあの日。
細い体と声は震えていて…。
あの日もここへ来るはずだったんだ。
この場所で中谷はどんな思いを胸に空を眺めていたのだろう。
毎日この場所で一人、涙を流していたのだろうか?
私の知らない時間がここで流れていて私も中谷が毎日ここで見ていた空を見たくなった。
山下くんの隣に座って空を見る。

満開の桜の下、眩しい太陽の光、晴れ渡る春の青空。
あまりにも綺麗で胸に込み上げる何かが溢れそうになる。
山下くんは空を見つめたまま私に言う。
「こんな綺麗な場所で中谷は何を思ってたんだろうな」
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