双世のレクイエム
「まず最初に、ワタルはんが【ニホン】ゆう御国におったことは覚えてはります?」
「はあ、まあ…。ていうかなんで俺の名前知ってんですか」
「それは後で。今はまずわての話聞かせるさかい、脱線はエヌジーどすう」
「はあ、」
少しついていけないノリに声を漏らすしか出来ないが、なんとかワタルは話を聞く態勢に入った。
いわく、療杏(りゃおあん)が言うには。
今ワタルたちがいるここは、【ニホン】でも【チューゴク】でも、ましてや【セイヨー】でもないらしい。
いわゆる、異世界だというのだ。
まったく次元が違う。この時点でワタルの理解適応力のメーターは超えてしまっている。
しかしまあ、本当にあるんだなあと案外冷静にそう思うばかりで、これといった感想もない。
現実味が無さすぎるというか、とうに現実逃避の域である。
「ほんで、ワタルはんをここに連れてきた理由(わけ)やね」
「ああ…。そういえば、何で連れてこられたんですかね、俺」
「なんやもう他人事みたいなこと言うてはるなあ…。まあええわ。
ワタルはんがここに連れてこられた…っちゅーか、わてらが連れてきた理由はな、い「テメェが化けもんになっちまったからだよ、ワタル」
「…え?」
療杏(りゃおあん)の声を遮るように、突如として現れた人物。
自分を【ワタル】と呼ぶあたり、相手はワタルのことを知っている人物なのだろう。
一体誰なんだろうと目で探してみると。
「やっと目覚めたか。まったく、どれだけ俺様を待たす気だ」
「…??」
長い艶やかな黒髪に紅い瞳。長身細身の男性がベッドのカーテンを手でよけながらワタルに顔を見せた。
のだが。ワタルは彼を知らない。もしかして相手が知っているなら、自分も知っている人物なんだろうと踏んだワタルだったが、どうやら見当違いだったようだ。
「(こんな美形だったら絶対覚えてるしなあ…)」
「あら、豪蓮(くおれん)やないの」
「?!」
「暇だから来てやっただけだ。別にこのちんくしゃの心配なんざしてねーっつの」
「??!!(く、豪蓮?!)」
見た目が違う。が、この人を馬鹿にした性格はまんま豪蓮のものだ。
いやでも豪蓮の髪は確か紅かったはず…。
一体どういうことだと頭を抱えて混乱するワタルに冷たい視線を向ける豪蓮(らしい人物)。
そんなワタルの気持ちを察してか、療杏がけらけら笑いながらワタルに声をかけた。