双世のレクイエム
「ああ、ワタルはんは紅い髪しか印象に残っとらんのやねえ。レンちゃん、見しぃや」
「チッ、面倒くせえ奴だな」
眉間にシワをよせるも、豪蓮(らしい人物)は何かを始めるようだ。
内心ドキドキと胸を弾ませるワタルは、黒髪の彼をじっと見つめた。
目を閉じ、すうはあと深呼吸する豪蓮(らしい人物)は、ワタルに目を向け「よく見とけ」と言うなり呪文らしき言葉を発した。
「儡巻舞応々娘、換乎切爬跳但ッ」
ワタルには何を喋っているのかよく分からなかったが、それでもこれが何かを意味していることはわかる。
現に、目の前にいた豪蓮(らしい人物)の黒髪が、燃えるような紅い髪に変わったのだから。
思わず拍手をしてしまう。
「うっ、わぁぁ…。なんか、すごい…」
「そうだろう、そうだろう。もっと俺様を誉めろ」
「本当に豪蓮(くおれん)だったんだねっ!」
「信じてなかったのかよ!つーか髪色で覚えんな!俺様のこの美しい顔を忘れるとか貴様バカ?!バカなのか!」
「だって初めて会った時は夜だったし!そもそもフツーその奇抜な髪色の方に目がいくし!」
「俺様に口答えするなっ!」
「アイデッ」
ゴンッと鈍い音が部屋に響く。
ただでさえ頭痛のするワタルにとって、これは効いた。すこぶる効いた。
「あらま。レンちゃん、まだワタルはんの体調は万全やないんどすえ。優しくしぃや」
「ふん。お前も俺に意見する気か?」
「けったいなお人やねぇ。病人には優しゅうするんが、普通とちゃいますのん?」
「病人?っは、この化け物がか?」
嘲笑うように鼻を鳴らす豪蓮(くおれん)に、叱るように療杏(りゃおあん)が「レンちゃん!」と声を荒げる。
その様子を頭を押さえながら黙って聞いていたワタルだったが、ふと気まずそうに片手を挙げる。
「あ、あの~…」
「なんだよ、まだ口答えする気か」
「いやっ、そうじゃなくて。…俺のどこが化け物なのかな、って…」
「………、は?!」
「………、え?!」
何を今更とばかりに声をあげる豪蓮に、おなじくワタルも驚きの声をあげる。
一体自分のどこが化け物なのか。至って普通だろうと首をかしげるワタルに、口をパクパクさせた豪蓮がワタルの首根っこを掴む。
「ちょっとこっち来い!」
「へ?…うわっ!」
「あっ、ちょっとレンちゃん!」
無理矢理ワタルをベッドから引きずり下ろし、そのままどこかへ連行する豪蓮に療杏が声をかけるも聞く耳持たない。