双世のレクイエム

見ていられないとばかりに「チッ」と舌打ちをする豪蓮(くおれん)に、ワタルはすがるようにまとわりつく。


「くお、れん…。化け物って、なに?化け物ってどういうこと?俺、化け物なの?違うよね?違う。違う。違うって言ってよ…ねえ」

「…うぜえ。貴様のことなんざ知るか。話が聞きたきゃあの変態にでも聞け」

「へんた…?」

「療杏(りゃおあん)のことだよ」

「りゃお…変態?」

「まあ、変態だな」

「くおれ、襲われた?」

「いや別に俺はあいつの対象外だから…って何聞いてんだテメェ!」


ガツンっと拳骨を喰らわしてやるとワタルの周りに星が浮かんだ。


「…痛いよ、豪蓮」

「痛い、ね。っはん、そりゃ大層なこった。それを言える時点でワタル、お前は既に化けもんだよ」

「は…?」

「この俺様の渾身の拳骨喰らっといて平気でいやがるなんざ、普通じゃねえっつってんだよ、このタコ」

「たっ…?!っていうか何それ、自意識過剰なんじゃないの」

「黙れクソ餓鬼」


ふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向く豪蓮。
しかしワタルはそれに怒りを覚えなかった。

混乱し、思わず自我が崩壊するところまで精神がきていたのだ。そこへ豪蓮の痛烈な一撃。

あまりの痛さのせいで逆に頭が冷静となった。
もしかして豪蓮はこうなるよう殴ったのだろうか。少々手荒な手段だが、きっと不器用な優しさ故にだろう。


「ありがとう、豪蓮」

「もっと誉めろ讃えろ跪け」

「…チョーシに乗んなっ!」


前言撤回。

この男には優しさという物は微塵もない。ただ自分の美に酔いしれている、阿呆んだらだ。


ワタルは渾身の力で豪蓮のナニを殴ったのだった。

その後、豪蓮がどうなったのか。


「…何してはりますのん」

「あ、療杏(りゃおあん)。俺を慰めて~」

「このクソ餓鬼…っ」


股間を抑えながら這いつくばり見悶えているところを、様子を見に来た療杏に冷たい目で発見されたという。

きっと豪蓮はこのことを一生根に持つだろう。
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