双世のレクイエム
「ほいで、ワタルはんの話の続きやな。ワタルはんも気になってはりますやろ?その髪のことゆうか…。
―――ワタルはん自身のことに」
「…うん」
こくりと頷くワタルに療杏(りゃおあん)はふっと優しい笑みを浮かべた。
「そう固うならへんでもよろし。まーったり、聴いておくりゃんせ」
「事情は複雑だがな」
「え…?ふ、複雑って。ていうか豪蓮(くおれん)やっと動けるようになったんだ。おめでと」
「貴様…、いつか殴るッ!」
「あはははは~」
「そうそう、そんな風にじゃれつき合いながらまったりしとくれやす~」
「誰がじゃれっ…、もういい!貴様らどっちも殴らせろ―――!!」
「ふぅ、いい汗かきましたなあ、ワタルはん」
「あはは…。まあ、見ていて面白かったよ」
「そらよかった」
「よかねーよッ!」
あれから小一時間。殴ろうとかかってくる豪蓮(くおれん)から逃げて追われての、鬼ごっこ状態が行われていたのだが、豪蓮としてはホンキで殺す勢いだったのだろう。
それを療杏(りゃおあん)の術によって足元をすくわれたり自分で自分を殴ったり…、まあ普段人を馬鹿にしている分、あれもちょうどいい薬だろう。
横たわってぜいぜいと息荒く二人を見つめる豪蓮の目には、確かな殺意が宿っている。
もっとも、当の本人らは涼しい顔をして仲良く談笑しているのだが。
いささか豪蓮が不憫にも思われるが、普段が普段なだけあって、内心誰でも『ザマァ』である。
「ところで療杏、さっき豪蓮につかったアレって、一体なんなの?」
「んー?術(これ)のことですかい」
『これ』と言ったところで療杏が指先にぽぽぽっと火を灯した。
ゆらゆら揺れる青い光が綺麗だ。
「そうそう、それそれ。…もしかして療杏も、俺と同じ化け物?」
既に自分が化け物だと認めたワタルに少々目を見開きつつも、「せやな」と言って療杏は灯していた火をしまった。
その表情はなんだか悲しそうだった。
「わて…ちゅーか、わてと豪蓮は少なくとも…普通の人やあらへんのどす。いうなれば化け物、―――妖怪どすなあ」
「よ、妖怪?」
それはニホンの、引いては東洋の魔物のことである。
古来ニホンより人々の恐れの対象として息づいてきたソレは、現代では身近な――とはいわずとも、漫画や小説などで広く普及している――ため、ワタルのいたニホンでも知らぬものはまず少ない。
そしてそれが今、ワタルの目の前にいるというのだ。