双世のレクイエム

しかも二匹…あいや、二人。

ワタルは二人の姿をまじまじと見つめる。

――どこからどう見ても、(ちょっと奇抜な)普通の美形二人組にしか見えないけどなあ。

そうは思いつつも、本人らがそう言うのだ。なにかしら人間とは違う所があるのだろう。

あまりにもワタルがじぃいっと見つめるものだから、療杏(りゃおあん)は苦笑してしまう。


「そない見つめられると照れますなあ。確かに、今の姿ではわからへん。
さっきレンちゃんの術見ましたやろ?呪文呟いたことで髪色変わったやつ、あれ、自分の封印を一段階解いたやつやさかい。
わてらの今の姿は、本当やないんどすぇ」

「一段階…?えっと、じゃあ、その封印は何重にもかけられていて、今の姿は本当じゃなくて、…え?」

「おい療杏、ちんくしゃが混乱してるぞ」

「…ちんくしゃじゃないし」


頬を膨らましてみるも、事実は事実。確かにワタルも混乱しているのだ。

その様子を見かねてか、療杏も「そうやねえ」と言って立ち上がった。


「ほんなら、見せた方がお早いどす。レンちゃん、いくでぇ」

「俺様に命令すんな」


豪蓮(くおれん)も立ち上がり、二人してワタルの目の前に立った。
ワタルは何が起こるのかと尚更混乱するばかりである。

療杏はくすりと笑ってから目を瞑って口を開いた。


「御限唔朧娘、沮創楼」

「―――」


豪蓮とはまた違い、優しいせせらぎのように流れる語を紡いだ療杏に、ワタルは言葉を失った。
見とれていたのだろう。

そうしている内に療杏の髪の色が変わる。

凍えるようにまっさらな蒼髪が、神々しく輝きを放つ白髪へ。
白というよりは、白銀に近いかもしれない。

その隣では豪蓮も呪文を呟いていた。


「儡巻舞応々娘、換乎切爬跳但ッ」

「――!」


力強い響きに聞いているワタルの体、いや、心が震えた。滝のように打ち付けられる言の葉に感動したのだ。


「(寝起きのときに聞いた呪文は、頭がボーッとしてたからなあ)」


惜しいことをしたと顔を渋めたワタルは、もう一度豪蓮に視線を向ける。

燃えるような紅髪から、全てを塗りつぶす艶やかで真っ黒な長髪へ。吸い寄せられそうになるほど綺麗な黒髪には懐かしさを覚えた。


「(俺もこの前までは黒髪だったのに…)」


今はこうして紫の髪となってしまった。
ちょっと、いや、かなりショックである。
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