双世のレクイエム
再びソファーの上に戻ったワタルは、ビクビクしながらも二人に尋ねる。
「じ、じゃあなんで髪色が変わるの…?」
「簡単に言えば、髪は都合のいい代物だからだ」
「都合のいいって、なんで?」
「学校で習わなかったか。髪は死んだ細胞から出来ているんだと。つまり空の器みてえなもんだな。
だからそこに封印した力を閉じ込めるんだ」
「へえぇ~」
成る程納得とばかりに声を漏らすワタルは、ふと気づいたことに「ん?」と首をかしげた。
ワタルの髪もまた、黒から紫に変わったのだ。自分は普通の人間のはず。そんな力、持っているはずがない。
一体どういうことなんだと二人に尋ねれば、豪蓮が「そこなんだよ」と溜め息をついた。
「貴様、覚えてるか?草原で倒れてたこと」
「ああ、うん…そういえば」
「曖昧な奴だな…、まあいい。その原因は覚えてるか」
「全然」
「即答かよ!ちったあ考えろッ」
「覚えてないもんは覚えてない!」
「……。」
むんっ、と開き直るワタルに呆れて声も出ない豪蓮。
その様子を見ていた療杏は、笑い転げて今にも死にそうである。
「はあ…、こんな奴と関わりを持っちまうとは…。でもまあこっちの責任らしいからな」
「へ?」
「あの日の夜、貴様が倒れていたのは俺たちがぶつかったせいだ」
「えっ、俺そんな軟弱かなあ?」
「事実は事実だッ、つーか倒れねーほうが逆におかしいんだよッ!」
豪蓮のイライラメーターが徐々に上がっていく。
「で、だ。俺たちがぶつかったせいで…しかも封印を解いていた状態で貴様にぶつかったからな。
そのせいでか、貴様に俺たちの力が流れ込んだ。その髪が証拠だ」
「うぇえっ?この紫の髪が?」
「間抜け面すんな。俺の力は紅、あの笑い転げてる変態の力は蒼。それが混ざってそんな色になったんだろう」
「えええ…、っていうか人のこと化け物化け物って言ってたくせに原因そっちにあんじゃん…」
「うるせえ。俺たちにとっちゃ貴様がそこにいたことが予想外だったんだよ!」
「責任転嫁~」
「黙れ」
「あい…」
みしりと顔面にめり込んだ拳を喰らい、しばらく余計なことは言わないでおこうと思ったワタルであった。