双世のレクイエム
問1:少年、思如何程何
*
正直言って、何が起こったのか分からなかった。というより、理解するほどの頭脳もなければ気力もない。
少年・ワタルはうまく働かない脳でそんなことを思っていた。
気づけば自分は倒れていて、どこかズキズキと体のあちこちが痛み、しかし目の前に見える景色は変わらなくて――――。
――いや、変わったものがすぐそこにあった。
ワタルを見下ろすように立つ人物がフタリ。
ヒトリは紅く燃えるような髪をしており、
ヒトリは蒼く凍えるような髪をしていた。
まるで対極にあるフタリだが、仲良くワタルを見つめて何やら難しい顔をしているあたり、その仲がどれほどのものなのかは察しがたい。
せめて何か言ってはくれないだろうかとワタルは口を開く。
が、すぐに驚き固まることしか出来なかった。
―――声が、出ない。
そういえば、自分はどうやって口を利いていたのだろうか。そもそも最近誰かと喋った記憶すらない。
どうしたものか。
口を利けない、声を出すことが出来ないとはまた深刻だろうに、ワタルは呑気にそう思うばかりであった。
「おい、貴様。喋れないのか?」
声をかけられた。紅い髪をした方にだ。
喋れないのでこくこくと頷けば、紅髪の人物は「そうか」と呟いてまただんまりを決め込んだ。
ワタルとは違い、どうしたものかと難しい顔をして悩んでくれるあたり、どうやらワタルをどうこうしようという訳でもないらしい。
今度は蒼髪の方が話しかけてきた。
「どっか痛いとこあらへん?」
また首を縦に振る。どっか痛いとこ?ええ、ええ、ありますとも。身体中がズキズキいたしますとも。
喋れない代わりにキツく睨むと、蒼髪の人物は「元気そうやな」と言って苦笑した。
「で、どうするさかい。この子、喋れんようやし体もよう動かれへんようや」
「どうすると言ってもな。アレの世話を焼けというのか?」
アレと言われたことにカチンときたワタルだが、紅髪の人物は、ふん、と鼻を鳴らすだけだった。
「ほんでも、こうなったんはわてらの責任どす。あの子の体がこれから一生動かれへんようけなったら、どないしはりますのん?」
「…それは、」
「相手が誰やろうと、わてらが何やろうと、礼儀を忘れたらあきまへんで」
腰に手をあて説教をするかのように紅髪を睨む蒼髪の人物。
どうでもいいからはやく助けてくんないかなあ、という言葉は飲み込む以前に吐き出すことも出来ないので、ワタルはただ夜空を見つめるばかりであった。
正直言って、何が起こったのか分からなかった。というより、理解するほどの頭脳もなければ気力もない。
少年・ワタルはうまく働かない脳でそんなことを思っていた。
気づけば自分は倒れていて、どこかズキズキと体のあちこちが痛み、しかし目の前に見える景色は変わらなくて――――。
――いや、変わったものがすぐそこにあった。
ワタルを見下ろすように立つ人物がフタリ。
ヒトリは紅く燃えるような髪をしており、
ヒトリは蒼く凍えるような髪をしていた。
まるで対極にあるフタリだが、仲良くワタルを見つめて何やら難しい顔をしているあたり、その仲がどれほどのものなのかは察しがたい。
せめて何か言ってはくれないだろうかとワタルは口を開く。
が、すぐに驚き固まることしか出来なかった。
―――声が、出ない。
そういえば、自分はどうやって口を利いていたのだろうか。そもそも最近誰かと喋った記憶すらない。
どうしたものか。
口を利けない、声を出すことが出来ないとはまた深刻だろうに、ワタルは呑気にそう思うばかりであった。
「おい、貴様。喋れないのか?」
声をかけられた。紅い髪をした方にだ。
喋れないのでこくこくと頷けば、紅髪の人物は「そうか」と呟いてまただんまりを決め込んだ。
ワタルとは違い、どうしたものかと難しい顔をして悩んでくれるあたり、どうやらワタルをどうこうしようという訳でもないらしい。
今度は蒼髪の方が話しかけてきた。
「どっか痛いとこあらへん?」
また首を縦に振る。どっか痛いとこ?ええ、ええ、ありますとも。身体中がズキズキいたしますとも。
喋れない代わりにキツく睨むと、蒼髪の人物は「元気そうやな」と言って苦笑した。
「で、どうするさかい。この子、喋れんようやし体もよう動かれへんようや」
「どうすると言ってもな。アレの世話を焼けというのか?」
アレと言われたことにカチンときたワタルだが、紅髪の人物は、ふん、と鼻を鳴らすだけだった。
「ほんでも、こうなったんはわてらの責任どす。あの子の体がこれから一生動かれへんようけなったら、どないしはりますのん?」
「…それは、」
「相手が誰やろうと、わてらが何やろうと、礼儀を忘れたらあきまへんで」
腰に手をあて説教をするかのように紅髪を睨む蒼髪の人物。
どうでもいいからはやく助けてくんないかなあ、という言葉は飲み込む以前に吐き出すことも出来ないので、ワタルはただ夜空を見つめるばかりであった。