双世のレクイエム

▼1:Purple boy




霧に隠れた伽皇山(がおうざん)の頂上。そこに建てられた庵にて。


「あああーッ!もうこんな時間じゃんっ、リィ、レン!早く行くよーっ!」


山いっぱいに響くような大声が聞こえたかと思えば、庵の戸を勢いよく開けた青年・ワタルは慌ただしく家を出た。


あれから3年。ワタルはありとあらゆる知識と術を授かった。
師であり従者でもある療杏(りゃおあん)と豪蓮(くおれん)とまではいかずとも、それなりに力はついたはずだ。

この世界の言語も読み書きできるようになった。生き残っていく術も教わった。ここでの常識も叩き込まれた。

ワタルはもはやこの世界の住人と化すレベルにまでここになじんだのだ。

それともうひとつ。


「おいワタル、テメェ忘れてんぞ」

「え?あっ」


髪を紫から、元の黒髪に戻すことも出来るようになった。

師匠(従者)たちいわく、『さすがにこの世界に来たといえど紫は目立つ』だそうで、まず初めにワタルは力の封印を教わったのだ。


「ありがと、レン」

「おう」


微笑みかければ豪蓮も微笑み返してくれる。レンと呼ぶようになった。

この3年はワタルを大きく成長させたと同時に、彼らとの交流を深くさせてくれるものでもあった。


「ほんに、仲良くなったねえ、二人共」

「そりゃあ俺様の心が広いから…」

「俺が仕方なーくレンと仲良くしてるんだよ~」

「…テメェ」


ひとつ、気づいたことがある。

豪蓮は威圧的な態度を取ることもあるが、親しくなると二人称が『貴様』から『テメェ』になるらしい。
よく笑うようにもなった。

ゴンッ

「痛い!」

変わらずよく殴られるけど。


「…って、レンと遊んでる場合じゃないんだってー!ほら早く行かなきゃっ、ほらほらあっ」

「…眠い」

「寝るなー!」

「はははっ、レンちゃんは朝弱いもんねえ。…わても弱いどすけど」


二人そろって欠伸を溢すものだから、ワタルは苦笑するしかない。


「そっか。二人共『妖怪』だもんね」


妖怪という事実や存在には驚かされたがもう慣れた。

もっと異形の者が住み着くこの世界では、いちいち驚いてられないのだとワタルも教えられているからだ。
< 23 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop