双世のレクイエム
しかし二人に合わせている場合でもない。今日からワタルは学生になるのだ。
異世界(ここ)に来てから伽皇山を滅多に下りることがなかったワタルにとって、初の遠出である。
「そう焦らんでも学校は逃げねえぞ~」
「学校が逃げなくても俺の気持ちがボムガッデム!」
「…意味わからん」
「お前のいたニホンの言葉は難しい」と、レンこと豪蓮は言うが、おそらく日本にそのような言葉は普及してないと思う。
「大体よ、テメェが力使えば一瞬でこの山下りれんだろう」
「せやかて、ワタルはんもここで蓄えた力発揮したらどうどす?」
二人の提案にワタルはハッと口を開く。
「その手があったか!」
「忘れてたのかよ!」
ぽむっと手を打つワタルにツッコむ豪蓮。それを見てけらけら笑う療杏と、関係は相変わらずだ。
そうと決まれば早速とばかりに豪蓮と療杏の腕を掴むワタルに、二人はサッと青褪める。
ワタルと二人は主従関係を結んでいる。それ故に、主であるワタルが合図(命令)を出せば二人はそれに従わなければならない。
そしてワタルが化け物であることの性質を思い出せば、このあと何が起こるか二人には手に取るようにわかる。
それがつまりどういうことか。
「ちょっ、ワタル待っ…」
「ワタルはん心の準備がっ…」
からんっ。
三人の姿が消えた。
つまり、こういうことである。
いや、消えたという表現は正しくないか。正しく言い換えれば少し難しくなるが、三人は消えたのではなく移動した。
どこに?
「ほんとに一瞬で下りれるんだね」
「「先に言え!」」
無論、目的である山の麓(ふもと)へ。
突然の余儀なく行われた移動により二人はぜえぜえと息荒くワタルを睨んだのだった。
大の大人二人を抱えて山を跳び下りたワタルがもはや人間でなくなったことが、これで証明される。
本当にワタルは化け物になってしまったらしい。