双世のレクイエム
足を校内に踏み入れ、ワタルはドキドキしながら目的の校舎へ向かう。
生徒たちの中には、力を封印したワタルと同じ黒髪の子もいた。
師匠(従者)いわく、この世界には東洋も西洋もちゃんと存在しているらしく。
ただ話す言語と一般常識以外は決まりもなく、自由に種族や出身が成り立っているという。
だから服装も、ワタルのいたニホンの着物であったりチューゴクのチャイナ服であったり、セイヨーのきらきらドレスも普及している。
そこはあまり異世界でも変わらないんだなと関心したことはつい二年ほど前である。
「(にしても豪華だよなあ…。校舎にどんくらい金かけてるんだろう)」
キョロキョロしながら歩いていると豪蓮に頭を小突かれた。
<ちゃんと前を見ろ>
「はいはい…。レンたちも、バレないよう気をつけてね」
姿の見えない二人にそう声をかけるワタルは、傍目から見れば変人だろう。
しかし、ワタルには見えている。
浮遊霊のようにぷかぷか浮いてワタルの傍にいる二人は、封印をした状態の紅髪と蒼髪をなびかせてワタルの周りをくるりと回った。
<俺様がそんなヘマをするわけないだろう。なあ、リャオ>
<そうどす。ワタルはんはもう少しわてらを信用してくれはっても、ええんとちゃいます?>
「ちゃんと信頼はしてるよ」
<ならええんどす>
ワタルの頭に顎を乗せ、べったりと背中にはりつく療杏。しかし浮遊霊状態なので、大した重みもない。
なぜ二人がこんな姿になっているのか。説明が必要だろう。
二人は今、浮遊霊同然の姿をしている。これはワタル以外の者に姿を見られないようにするためだ。
なんでそうする必要があるのだと尋ねれば、それは秘密だとはぐらかされた。
しかし、それよりも二人は妖怪のはず。幽霊ではないのでは?
いわく、妖怪は姿を眩ませたりすることが得意らしい。しかも今はワタルの僕(しもべ)状態であるから、ワタルには姿が見えるようになっているんだと。
なんて便利なご都合設定。
とにもかくにもそういうわけで、二人は今ワタル以外に姿は見えていない。
つまり、思う存分療杏はワタルに甘えられるというわけだ。
<なあなあワタルはん。授業中もし我慢できひんようなってもうたら、こうしてワタルはんをお触りしてもええ?>
<お前それセクハラ…>
「いいよ」
<いいのかよ?!>
「だって別に嫌じゃないし。撫でられるのも抱きしめられるのも。むしろ嬉しいかなあ。リィに撫でられると安心するんだよね、俺」
<さいですか…>
<やった!ワタルはん大好きーっ>
ぎゅうぅっと抱きつくショタコン療杏に、豪蓮は呆れるしかないのであった。