双世のレクイエム




予想通り、ワタルはさっそく学園長に呼び出しを喰らい説教を受けた。
ワタルの療杏に対しての説教より、断然こちらの方が足が痺れる上に長い。

それも学園側にはワタル自身が一人でやったことだと思い込まれているのだから、尚更ご機嫌は斜めである。
しょぼくれる療杏にワタルはそれでも「大丈夫だよ」と微笑むが、しばらく療杏はこのことを引き摺るだろう。


やっとのことで長い長い説教が終わったのは、お昼を過ぎてのことだった。
ワタルたちがここに来たのは朝の8時。
そこから入学式やら暴走やらがあって10時ほどに事態が落ち着き、それから呼び出されたのだから、約2時間ほど説教を受けていたことになる。


<ワタルはん、大丈夫?堪忍なあ、わてのせいでこないなことになってしもうて…>

「だから大丈夫だって。逆にリィは自分の心配をしなよ、りゅうとの闘いで痛むとこない?」

<わてはワタルはんの身体使うて闘ったんどすっ、せやからワタルはんの、その右手も…。
傷ついたんはワタルはんや。わてが心配される理由はあらへんし、わてが心配される身分でもないんどす>

「身分って…。リィは俺の大切な仲間なんだから。右手も大丈夫。だから、ね?そう気に病まないでよ」

<ワタルはん…>


にっこりと微笑みかけるワタルに、療杏は着物の袖で口元を隠す。
おそらく感動しているのだろう。


<ワタルはんが心配…わてのことを心配してくれはった…!もうこれなんて言うんやろ、我が子に『大好き』言われる親の心境? 恋人に『お前は俺が守ってやる』って言われる心境?
ああんもうっ、ワタルはんたら天然タラシなんやからぁっ!>

<お前ほんとワタル大好きだよな…>

「……。」


頬の紅潮した療杏を前に、ワタルと豪蓮は二人して身を引いたのだった。
リャオさん現実(こっち)に戻ってきて。

ショタコンというより、今となってはワタルラブの暴走は厄介だろう。
現に、今回の騒動もそれだ。


「さて、残る問題はこっちだよねぇ」

<まあな。だが、こっちは案外早く片付くんじゃねえか?>


ワタルと豪蓮。二人の視線の先には白いふかふかのベッドがある。
その上で眠っているのは、今は小さくなったりゅうの姿。

一旦保健室に預けられたりゅうの様子を見に、三人はこうして赴いたというわけだ。

暴走する前まではワタルとおなじ16歳前後の見た目だったりゅう。それが今や5歳ばかりの幼児化としている。

一体何があってこうなったのか。


「リィ~。どういうことか、説明してくれるよねぇえ?」

<う…。そ、それは…そのう…>


どもる僚杏は両の指先をくっつけながらワタルと目を合わさぬよう視線を泳がし、ワタルは事態を説明しろとジットリした視線を僚杏に向ける。

その様子を前に、豪蓮は深く深ーく、息を溢したのだった。

<あーあ。俺、知ーらねっ>


「リィイ~?」

<ううっ、堪忍してぇえーっ!>

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