双世のレクイエム

容易く想像できるりゅうの未来に、ワタルは自身の唇を噛んだ。

その様子を見た豪蓮は、ポンとワタルの肩に手を置く。


<なあ、ワタル。テメェは心底どうしたいと思ってる?このままこいつを見捨てたいのか、はたまた引き取り利用するのか>


ずるい、と思う。
その聞き方はずるいとワタルは顔を歪めて豪蓮を睨むが、豪蓮の表情は変わらない。


<選べ、ワタル。テメェの選んだその選択は間違ってねえ。躊躇すんな、勘でいけ。テメェはどうしたいのか、深く考えなくてもいい。
テメェは確かに、間違っちゃいない>

「っあ…」

<さあワタル、お前はどうする>


お前の選んだ未来にだけ、俺たち双世は従おう。

全ては主の望むままに。


噛む力を入れすぎたワタルの唇からは、豪蓮の力のような紅の血が流れていた。
従者二人が見守るなか、ワタルが下した決断とは。


「俺は…、」

<……。>

「っ俺は、りゅうを、…独りになんか、したくない。
支えられるなら、支えてあげたいっ…」

<ワタルはん…>

<…ほう>


うつ向き、爪が食い込むほど拳を握りしめるワタル。
しかし対極に口角を上げた豪蓮は、ワタルの頭をくしゃりと撫でた。


<上出来だ>


その言葉の意味をワタルは分かりたくないと、切な気な表情をスヤスヤと眠るりゅうに向けたのだった。




【憑かれや】と【憑きもの】
その関係は主従に値する。

例えばそう、ここに奴隷と王様がいたとしよう。奴隷と王様。つまり奴隷はその身分上、必ず主である王様に逆らってはいけない。
もし逆らえばどうなるか。

死刑確定。
死を以て懺悔を行い、一生をそこで終わらせられるだろう。

主が「殺れ」と言えば殺すしかない。
主が「死ね」と言えば死ぬしかない。

従者も奴隷も、要は同じ立場なのだ。

主の命(めい)は絶対。
逆らえば、コロサレル。


それを理解した上で、人はまだ軽々しく契りを結ぶか?
命を預け、預かる覚悟はあるか?

覚悟なき主を持つ従者(奴隷)は皆こう言うのだ。


『いっそ私を殺してくれ』と。


汝、覚悟無命無。
(覚悟無ければ命無し)
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