双世のレクイエム


「それとね、ワタル。お願いがあるんだ」

「お願い?」


ワタルから離れ、畏まって正座をするりゅうにワタルは首をかしげる。



「俺を、ワタルの【憑きもの】にして」

「?!」



それは酷く悲しげで、
残酷な願い事だった。

【憑きもの】になるということはどういうことなのか。それをりゅうは分かっていて頼んでいるのだろうか。

ワタルは焦燥感に掻き立てられながら、垂れる冷や汗をそのままにりゅうを見つめる。


「ワタルは【憑かれや】なんでしょ?さっきの闘いでわかったよ。だったら俺を利用して、【憑きもの】にしてよ。ワタル」

「っなんで…」

「あのね、ワタル。俺、昔いじめられてたの。たくさん痛いことされた。苦しかった」

「……。」

「それでね、こうやってワタルに抱きしめられてね、すっごく嬉しかったんだ。温かかった」


にっこりと嬉しそうに、柔和な笑みを浮かべるりゅう。


「……。でも、それなら尚更。【憑きもの】になんて。もっと苦しむことになるかもしれない」


それは嫌なんだ。

苦渋に顔を歪めるワタルの拳は震えている。じっとりと手汗がズボンに滲んだ。


「……ワタルは、優しいね」

「え?」

「俺、優しくされたこと、あんまない。だからワタル、俺に優しくしてくれて嬉しい。一緒にいたい。
そう思うのは、そう願うのは、ダメなこと?」


見上げるりゅうの目は真剣だった。

本気でワタルの【憑きもの】になりたいと、ずっと一緒にいたいと思っているからだろう。

命を差し出す覚悟?
苦痛に耐える覚悟?

そんなもの、ワタルのためなら惜しくない。むしろ、ワタルだからこそ従いたいのだ。


りゅうの決して揺らがない気持ちに、今度はワタルが泣きそうな顔をする。

なんて強い子なんだと、それに比べて自分は情けないと。ワタルはもう一度、りゅうを抱きしめた。
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