双世のレクイエム
「堪忍しとくれやすな。不器用なお人やて、ほんまは優しいんどす」
「う、あ…療杏(りゃおあん)さんがそう言うなら…」
「おおきに」
微笑む療杏に撫でられると、不思議とワタルの心は落ち着いた。
「(…不思議な人だ)」
そう思いながらもどこか安心する、ワタルにとって療杏はどこかお兄さんのような存在なのかもしれない。
その様子を面白くなさげに見ていた豪蓮(くおれん)が、チッと舌打ちをしてずかずかとこちらに入り込んできた。
「おい、いつまでそうしてんだ。さっさと行くぞ」
「へ?い、行くってどこに…」
「俺らの家!」
それだけ言うとパチンっと指を鳴らして豪蓮はその場から消えた。
これにはワタルも目を丸くする。
「消えた……」
「まったく、レンちゃんたらなーんも言わんと行くんやから。いけずなお人。…ワタルはん、覚悟はおあり?」
「か、覚悟?覚悟ってなんの…」
先程から驚きの連続ばかりでワタルの頭も理解に追いついていないのだ。
ましてや唐突に『覚悟』など。ワタルにとっては重い鎖以外の何物でもない。
しかし真剣な目をしてワタルを見つめてくる療杏の瞳を見れば、自然と頭の中がスッキリした。
そう、なにも全てを理解しろというわけではない。
今すぐにとは言わないし、これからじっくり理解していけばいい。
そう言われているような気が、ワタルにはしてならなかった。
思わずこくんと頷けば療杏はまたあの優しい微笑みを浮かべ、「おおきに」と言ってワタルのデコにそっと触れた。
途端、ピリッとした痛みが流れ込み、ワタルは顔を歪ませる。電流が直接脳に触れる感じに気持ちの悪さを覚え、吐き気すら込み上げるのだ。
「(一体、何…?)」
ぼやける視界と反転する世界。
最後に見えたのは。
「堪忍、こうでもせえへんとあんたは……」
悲哀に顔を歪ませる、療杏の姿だった。