双世のレクイエム
「もっと、辛い思いをさせるかもしれない」
「うん」
「俺のせいで、りゅうが死んじゃうかもしれない」
「うん」
「りゅうの自由を俺が、奪うことになるんだよ」
「うん」
「…それでもりゅうは、俺の【憑きもの】になる?ただ傍にいたいだけなら、俺はいつでもりゅうに会いにいくよ?」
だから、無理をしないで。
最後の言葉は飲み込んだ。言ってしまったら最後、りゅうに怒られそうな気がしたから。
ワタルの耳元でふふっと笑ったりゅうは、そっとワタルから離れる。
「俺はワタルの役に立ちたいの。ワタルに利用されても、俺、幸せ。
ワタルみたいな優しい人のためなら、俺は命、惜しくないの。
だからワタル。俺を【憑きもの】に、従者にして」
にこにこと笑うりゅうは、ほんとに今にでも命を差し出しそうだ。
本当に俺なんかでいいのか?
そう尋ねようとしたがやめた。
もうりゅうの気持ちは変わらないだろうし、逆にそこまで追求するのも無粋だろう。
ワタルの頭の中に、ふと豪蓮の言葉が蘇る。
『テメェの選んだその選択は間違ってねえ。躊躇すんな、勘でいけ。テメェはどうしたいのか、深く考えなくてもいい。
テメェは確かに、間違っちゃいない』
ああ、確かにその通りだ。
深く考えなくていい。ただ自分がどうしたいのか。
純粋な気持ちでぶつかればいい。
ワタルもりゅうと同じように正座をし、頭を下げた。
「じゃあ…。これから、よろしくお願いしますっ」
「うん。よろしく、ワタル」
あははと笑うりゅうの表情(かお)は、それまでの暗い思考を吹っ飛ばすほど、幸せに満ちていた。
一方。そんな二人の様子を窓の外から覗いていた妖怪二人はというと。
<どうやらあの朱龍も仲間に加わったみたいどすなぁ。…ほいでレンちゃん、あんたの目的は何や?>
ジロリと横に浮かぶ紅髪の男に視線を移した療杏。その目は何かを探っているようだ。
豪蓮は煙草を加えながら肩をすくめる。
<目的?ねえよ、んなもん。ただ俺は確認したかっただけだ>
<確認やて?>
意味がわからんと眉を潜める療杏に、わからなくてもいいと豪蓮は口角を上げる。
<こんぐれえで戸惑ってるようじゃあ俺ら【双世】の主は務まらねえ。あいつはまだまだ青い。ヒヨっ子どころか自分の殻すら食い破ろうとしねえただの餓鬼だ。
ただ持て余すだけの力を持った、覚悟のねえ甘ちゃんだな。
今回の一件はとりあえず合格だ。だがつつけば奴は必ず暴走する>
<…何が言いたいんどす?>
<別に。ただ俺は…、おっと。ワタルがこっちに気づいたぜ。リャオ、この話はまた今度だ>
<……。>
煙草を捨て足で踏み潰した豪蓮は、療杏の何か言いたげな視線を無視してワタルの方へと向かった。
残された療杏は、ただ言葉に出来ぬもやもやに不快を感じながら豪蓮の後に続いていったのだった。