双世のレクイエム

三人が騒ぎ一人が見守っているという保健室の光景。
少々、いや多少騒がしかったせいか、ワタルは気づかなかった。

コツ、コツ、と廊下から聞こえてくる靴の音。その足音は確かに保健室に近づいており、騒がしい室内でも豪蓮と療杏、そして朱火はハッと視線を出入り口に向ける。

三人の様子にワタルもどうしたんだろうと出入り口に目を向けた。

そして、戸が横にカタリと音をたてて引かれた。


「随分と仲の良い主従だな。室外にも声が聞こえた。
こんにちは、ワタルくん。私が今日から君の担任になった【トリム】だ。そちらの赤髪の坊やもよろしく」


そこにいたのはフレームのない眼鏡をかけた、白衣を着た男性だった。


「坊や違う!俺、ワタルの【憑きもの】!」

「ちょっ、朱火!」


威嚇するように牙を見せ喉を鳴らす朱火に、ワタルは慌てて朱火を止めようと肩に触れる。

その途端、朱火の姿が人型から小さな龍へと変化したのだ。


「?!」

「ほう…、赤髪の坊やの正体は【龍】か。これまた小さいな。まだ幼生らしいが、きっと立派に育つだろう」

「小さい言うな!俺、ワタル、守れる!小さくても、強い!」

「っ??」


小さい龍、というよりは赤蛇のようなサイズになった朱火。一体なぜこのような姿になったのか。
ワタルが混乱していると、ふよふよ浮いていた療杏がそっと耳打ちしてくれた。


<ワタルはんと赤蛇坊やの関係は主従どす。せやかて、ワタルはんがそいつを止めたい思うたから変化したんとちゃいましょか>

「あ、成る程」


そういうことかと深く頷いたワタル。

というか、どうやらトリム先生には療杏と豪蓮の姿が見えていないらしい。
まあ当然二人は姿を眩ましているのだから見えないことは当たり前なのだが…。

そこでワタルは、ふと疑問を浮かべる。

なら、なぜ朱火には二人の姿が見えるのか?
これには豪蓮が答えてくれた。

いわく、朱火は【龍】という非常に稀少で有能な種族だという。その口は人の言語を話し、その頭はあらゆる知識を持ち、その身体は万物において滅多な薬となるという。
そして龍の目は、見えざるものを見るというのだ。

こんな阿呆の子なのに、どれだけすごいのだ朱火は。と、ワタルが失礼なことを思ったことは置いておこう。


「えっと、それでトリム先生。俺に何か…?」

「ああ。校舎案内が終わったら明日のことについて新入生は集まる予定になってたんだ。
ワタルくんはどうやら校舎案内にも参加していなかったようだし、こうしてここに迎えに来たというわけだ」

「な、なんかすみません…」


トリム先生もこの学園の教師。療杏の暴走についてもワタルに興味を持っているだろう(悪い意味で)。

ワタルは居心地悪くベッドに正座していたが、トリム先生は笑って「ついてきてくれ」と言う。


怒られるのかと思ったワタルは安心して、慌ててトリム先生の後についていったのだった。
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