双世のレクイエム
どこへ向かうかは聞かされていないが、とりあえずトリム先生の後ろにぴったりついていくワタルは、興味深く校舎の中を見回した。
他の新入生と違い、ワタルは校舎案内をされていないのだ。保健室に来るまでの道のりも、火傷の痛さに校舎内を見る余裕がなかった。
故に、こうして整備された校舎を好奇心もそこそこに眺めているのだろう。
ふよふよ浮いている妖怪二人は、そんなワタルを見て呆れたり笑ったり、だ。
<可愛ええどすなぁ、ワタルはんったら>
<そうか?俺様には阿呆面晒してせわしなく顔を動かすただの餓鬼にしか見えんぞ>
<またまたぁ、レンちゃんもものごっつ可愛ええ思うとるんでっしゃろ?素直やないねぇ>
<仮にそうだとして、俺様がワタルに欲情したらお前はどうする?>
<殺す。全身の関節動けへんようにボキボキ折ってから喉笛かっさばいてやりますぇ>
<……。>
「……。」
目が笑っていない。
聞いてはいけないことを聞いてしまったなと、ワタルは密かに震えるのだった。
一方、ワタルと手を繋いで鼻歌を歌っていた朱火も話に加勢する。
「俺、そこの変態と俺様野郎から、ワタル守るよ!ワタルの貞操、俺、守るっ」
「ちょっと待って朱火さん、趣旨が危ない方に切り替わっちゃってるよ」
<あはははははは!あんたみたいなちまこい存在にワタルはんが守れるんかいな?ワタルはんの貞操はわてが貰いますぅっ>
「リィもノらないでよ!」
<いいや、テメェは俺様のもんだろ。生涯を俺様に捧げるって、言ったよなあ?ワタル>
「いやいやいやっ、それ出会い頭にレンが勝手に言ってただけだよね?!しかも脚色しすぎっ」
「ワタル、俺の!」
<ワタルはんは渡しまへんっ>
<俺様の奴隷に手ぇつけんじゃねーぞ>
「っ…あああああもうっ、俺は誰のもんでもな―――――いッ!」
「――一体誰と喋っているんだ?」
立ち止まり、こちらを振り返ったトリム先生が首をかしげる。
ワタルはしまった、と慌てて言い訳の言葉を探したが、混乱する脳内ではどうにもこうにも言葉が見つからない。
疑問符を浮かべたトリム先生が「まあいい」と言葉を発したことでなんとかこの危機は免れた。
ホッと一安心したワタルが安堵の息を漏らしていると、
「ついたぞ」トリム先生がある一室の前で立ち止まる。
「ここで説明会を行う。これからもこの部屋を使う回数が多くなると思うから、場所を覚えておくように」
着いた先。
プレートには、【第一講堂】と書かれていた。