双世のレクイエム

重そうなクリーム色の扉を、トリム先生が手を押して開いた。


開かれた大きな空間。そこには大勢の人がいた。ザッと200人はいるだろう。

そしてその200人程の生徒たちが、この春この学園に新入生として入ってきた者達である。


生徒たちは、トリム先生が来るなり近くの席へと慌てて座った。
ワタルも座るよう促されたため、後ろの空いている席へと適当に座る。

どこかの大学の講義室を思わせる空間に、またワタルはキョロキョロと室内を見渡す。

新入生200人が入っても、決して狭いと感じないほど広い講堂。
窓際にある花が風もないのにゆらゆら揺れ、ワタルの興味を惹きつけた。

あれは何と言う花なんだろう、と療杏に尋ねようとしたワタルだったが、丁度その時トリム先生が口を開いた。


「君たちには明日から、新人研修会を受けてもらう。毎年音を上げる者がいるが、…決して死にはしないので、せいぜい地獄を見てくるといい。
以上」


その場にいた、全ての新入生の目が点になった。

トリム先生は全員の顔を見渡すなりニヤリと笑うと、後は何も言わずその場を立ち去った。

代わりに、気の弱そうな糸目の先生が台に上って補足説明をする。


「ええっと、新入生には毎年受けてもらってる新人研修会というものがあるんです、はい。ちょっとしたクエストのようなもので、気楽~にやってもらって結構ですから」


糸目先生の言葉に数人が安堵の息を漏らす。
それもそうだ。トリム先生に『地獄』と言わせたのだから、やる以前に危険を感知してしまうだろう。


「あ、でもグループによってちょぉ~っと腕が千切れる程度のクエストが課せられるかもしれませんので、そこそこ気をつけてくださいね、はい」


空気が一瞬で冷めた。

危険度は低いとつい先程判断したというのに、『腕が千切れる』と言われれば天から地へ叩き落とされたような気分にもなる。

200人中、ほとんどの生徒の顔が引きつっていることは確かだろう。

ワタルも例外ではない。
青褪めた顔でふよふよと浮く妖怪二人に目を向けた。


「…ち、ちょっとどういうこと?ここ、学校だよね?軍人養成所じゃないよね?え、なに、地獄?腕が千切れるって、あ、あはっ、あはははははは…。
俺まさか、危ないとこに来ちゃった感じ?」


ガッデム!頭を抱えて唸るワタルに、豪蓮は意地悪くニヤリと笑った。


<言ったろ?ここは実力派エリート校。力を使役して未来に役立たせるための人材を育てるんだ>

「え、エリートってそういう意味…」

<ここは手強いぞ、ワタル>


いつ命を落としてもおかしくない。
そう言われているようだ。

一体これから何が起こるのか。悪い予感しかしないとワタルは大きく溜め息をついたのだった。
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