双世のレクイエム
「なあ、俺たちとグループ組まねえ?」
そう言われたのは、新人研修会の説明を受け終えてすぐだった。
色々とショックな研修内容にワタルがぐったりとしていると、ぽんと肩を叩かれたのだ。
声を掛けてきた金髪の少年、名前は【エルメッド】というらしい。気楽に【エル】と呼んでくれとのことだ。
「そういえばグループ組まなきゃいけないんだっけ。あ、ついでに俺【ワタル】っていうんだ。よろしく」
「ついでかよ」
くはっと笑うエルもまた、「よろしく」と言って握手した。
なかなか好感を持てそうなエルの雰囲気に、ワタルは少しだけ頬を緩める。
ここに来て初めての友達に(朱火は例外として)、ワタルの心は少しドキドキしていた。
金髪の髪に緑の瞳。それに加えて色白だということは、エルは西洋出身なのだろう。
元の世界で日本生まれだったワタルは、外国人がフレンドリーだということを改めて思い知る。
もっとも、ここは異世界なのだが。
「俺でよかったら。グループは俺とエルだけ?」
「いや、残りはあっちで喋ってる。俺と同じ金髪の奴らな。
ところでワタル。お前、入学早々やらかしちまったなあ!」
「えッ、やっぱみんな知ってんの?」
「知ってるもなにも、あんだけ暴走してりゃなあ。…で、そこにいる赤髪のちまっこい坊主はお前の弟か?」
「ちまっこい言うな!」
ガルルルルッと唸って睨む朱火に、「おお怖い」と言ってエルは肩をすくめる。
「こ、こらっ!」慌ててワタルが朱火に声をかけると、朱火はワタルの膝に飛び乗った。
「俺、ワタルのもの!【朱火】って名前、ワタルつけてくれた!」
「名前つけたって、ワタル。お前まさか…」
「ああうん、俺【憑かれ「そんな歳で父親なのか!やんっ、ハレンチ!」
「チガイマス」
きゃぁぁっ、と頬を押さえて身をよじるエルにすかさず訂正をいれる。
ワタルの後ろでは、ふよふよ浮いた豪蓮が腹を抱えて爆笑していたという。
「ははっ、まあお前が父親だとちょっと違和感あるけどな。男のくせに可愛い顔してっし」
「ちょっとどころか多少の違和感持とうか。あと『男のくせに』って、俺が傷つくから!」
「悪りぃ、悪りぃ」
全く反省していないエルは、へらへら笑いながら片手を立てた謝罪ポーズをする。
少し傷ついたワタルは唇を尖らせつつ、膝の上に乗った朱火の頭を撫でた。
「そうじゃなくて、この子は俺の【憑きもの】。ついさっきの暴走で仲間になったんだ」
「へ?暴走でって…。じゃあそいつ、さっき暴れてた龍なのかよ?! うひゃー、それがどうしてこんなちまっこく…」
「ちまこくない!これでも俺、ワタル守れる!」
「うんうん舌足らずさがまんま5才児って感じだな~」
「ムキィィイーッ!」
腕をぶんぶんと振って、今にもエルに殴りかからんとする朱火。
膝の上で暴れる朱火を抑え込み、ワタルはエルに視線を向ける。
「朱火、落ち着きなさい。エルも煽らないでよ…」
「悪りぃ悪りぃ。でもこいつ面白いな」
ぽんぽんと朱火の頭に手を乗せるエル。
朱火は相変わらずぶすくれたままだ。