双世のレクイエム
力が半減し、そのせいで5才児ばかりの見た目になってしまった朱火。舌足らずさや口調もまるで5才児だ。
それを気にする朱火が可愛く、ワタルもエルの後に頭を撫でてやった。
「って、おいおい。俺が撫でたらぶすくれたくせに、ワタルが撫でっとデレデレじゃねーか。
おうおう、さすが父親!」
「だから違うっつの」
冗談とわかっているから、そこはワタルも笑いながら否定する。
初対面のはずなのに、まるで前々からの友達のようなエルに、ワタルは不思議だなぁと思った。
きっとこれも、エルの明るい性格故にだろう。
しばらく談笑していると、ぽつりぽつりと講堂から生徒がいなくなり始めた。
もう帰ってもいいと先生方からは指示を受けているため、ワタルたちもそろそろ帰ろうかと椅子から立ち上がる。
そこに、エルがふと疑問を持ちかけてきた。
「あ、ワタル。お前って寮生?」
「え?えっと多分…寮生ではないはず…なのかな?」
「いや俺知らんて」
学生寮に入るかどうか、そこまではワタルも覚えてないというか知らない。
どうなんだろうと浮いている二人に目を向けると、豪蓮が耳打ちしてくれた。
<テメェは寮生じゃねえよ。ま、もしかすっと来年にゃあ寮生になるかもしれねえけどな>
「? 来年には…?」
<ああ。ここは実力派エリート校。先生方は一年かけてテメェらを観察し、優れた奴を無理矢理にでも寮にぶちこむ。
有能な奴をせめて守りたいっつーか、手近な所に保管でもしときたいってとこじゃね?
で、ワタル。テメェは俺様の力を半分受けてっからチョー強いわーけ。来年にゃ必然的に寮生になるわーけ。おわかり?>
「うっわぁぁ、何それ最悪…」
「お前、誰と喋ってんだ?」
エルには豪蓮ら二人が見えていないため、首をかしげてワタルを見つめるばかりだ。
傍目から見ると壁に向かって喋っている、痛々しいワタルくんにしか見えない。
ワタルは慌てて豪蓮から視線を外し、エルに顔を向けた。
「いや、なんでもっ。それと俺、寮生じゃないらしいから!」
「? そか。俺は寮生だけどな~」
Vピースでにこにこ笑うエルに、ワタルも同じく笑みを溢した。
それと同時に、いつまでこんなこと、続けなければいけないんだろうと頭の片隅で思った。
いつまで妖怪二人の存在を隠さなければいけないのか。
そもそもなぜ二人は姿を見せようとしないのか。
二人が隠している秘密とは一体何なのか。
謎は募るばかりで、二人は何も教えてはくれない。
「それじゃあ、また明日な」と言って元気に手を振り去っていくエルの背を見つめながら、ワタルはどうにも気分が晴れないのだった。