双世のレクイエム
とはいえ、今更グループは変えられまい。なんだかんだ喧しいエルキリ兄妹も、天然要素の入ったザックも、ワタルは好きになった。
そんな思いを胸に、ワタルは台に上るトリム先生に視線を移したのだった。
「おはよう、諸君。今日から待ちに望んだ新人研修会が始まる。昨晩から眠れなかった者もいるだろう。良い意味でも、悪い意味でも、な」
そりゃあ腕が千切れると聞かされれば、ヒスりたくなるのもわかるが。
トリム先生は言葉を続ける。
「今日の新人研修会、君たちにはグループに分かれてもらったと思うが…ふむ、40グループに分かれたか。
今回のクエストは20ある。つまりどういうことか、分かるな?」
含んだ言い方をするトリム先生の言いたいことはこうだ。
40グループある新入生に、20程のクエスト。つまり、2グループで1つのクエストをやれということだ。
そしてそれはイコール、その2グループで争えということなのかもしれない。
「右側のグループから順に、先生方から紙を貰ってくれ。そこに、新人研修クエスト内容が書かれている。
…ああそれと、命は落としてもクエストはしくじるな。自分の使命を最後まで果たせ。以上!」
トリム先生の『ついで』の言葉に、その場にいるほとんどの生徒が青褪めた。
トリム先生も意地悪な人だ。
昨日今日と厭きることなく生徒たちを怯えさせている彼は、いわゆる鬼畜というものなのだろうか。
あんな人が担任なんて、嫌だなあ。と、体を強ばらせてワタルは思うのだった。
そうして今からクエストということで、さっそくエルは貰ってきた紙を手に、ワタルの元へ駆け寄ってきた。
後ろには勿論、妹のキリと友人のザックがぴったりとくっついている。
「ワタル!紙貰ってきたぜ。さっそくクエスト確認するか」
「うん」
綺麗に畳まれた白い紙を、エルが丁寧に開いていく。
頭をくっつけるようにして覗きこみ、内容を確認したワタルとエルは二人揃って「はあ?」と間抜けた声を出した。
「なんっじゃこりゃ!こんなのかクエスト?馬鹿にしてんじゃねーか!」
「実力派エリートに必要なのかな?」
「いやいやワタルっ、こんなのがエリートに必要なわけなくね?大方、新人だからって舐められてんだろ」
頭を掻きむしるエルに、ワタルは紙を見つめながら首をかしげる。
そこへ、まだクエスト内容を確認していないキリとザックがどうしたのだと入り込んできた。
「どうしたの?っていうか、あたしたちにも見せてよね」
「二人だけで見るのはズルいです」
「ああ、悪りぃ悪りぃ」
頭を掻きながらキリとザックに目を向けるエルは、ワタルに教えてやれよと目で催促する。
「ほら、ワタル。その内容音読してみ。一字一句漏らさずな」
「ええっと、こほん。
『新人エリート育成プロジェクトその1、猿の子の相手をすべし』…だってさ」
「……。」
「……。」
「…、はぁぁああっ?!」
最初に反応したのはキリだった。
ワタルはキリの大声に思わず体が震えた。隣にいた朱火も、だ。
「ふざけんじゃないわよ!」声を荒げて拳をワナワナと震わせるキリは、エルと同じように顔をしかめる。
その形相は凄まじい。