双世のレクイエム
ワタルたちが輝くワックスヘアーに釘付けになっているとはいざ知らず。
ワックスニキビ小僧は髪を撫でながら、口角を上げて口を開いた。
「よーう、お前らもこのクエスト受けんのかぁ?ったく、くだらねぇクエストだよなあ。なーんで公爵家出身の、この、僕が、わっざわざ猿の相手せにゃならんのかねぇ」
公爵家出身、をわざと強調するあたり、おそらく成金野郎だろう。パパの脛をかじるだけの駄目男なんだろう。
一斉に哀れみを含んだ視線を向けるワタルグループだったが、ワックスニキビ駄目小僧には効果がなかったようだ。
ふふん、と笑ってワックスニキビ駄目小僧はべたべたの輝くワックスヘアーを撫でる。
「ま、こんなクソみたいなクエストでも、僕にやって欲しいっていうんだからやってやるけどよ。
あーあ、汚い猿共にこれから会いに行くなんて、反吐が出るよ」
やれやれと溜め息をつくワックスニキビ駄目小僧は、なんだか感じが悪い。
おまけに偉そうだ。
ワックスニキビ駄目小僧のくせに。
思わずムッとした感情を抑えきれなくなったワタルは、眉間にシワを寄せながら前に出る。
「ねえ、君。さっきから失礼なことばっか言ってるけど、君も所詮素人でしょ?クエストに文句ばっかつけて偉そうにしてる奴が、エリートになんかなれるわけない」
「おやおやぁ、可愛らしいお嬢さんにそんなこと言われるなんてなぁ。
レディーだから許してあげるけど、次僕にそんな口聞いたら潰すよ?」
「ッツ!」
ヒクっ、とワタルの顔が引きつる。
可愛らしいお嬢さん?
レディーだから?
ああもう、人が気にしてることをズケズケとッ…!
ワタルは咄嗟にワックスニキビ駄目小僧の胸ぐらを掴み、なるべく抑えた声で怒りを露にした。
「とんだ節穴野郎なんだね、その公爵家出身の息子様は。
俺が、お嬢さん…?顔ばっか見てないで制服見ろっての!俺は男だッ、お前こそそのぶら下がったモツ潰すぞッ!」
「ひぃいっ!」
「うあちゃー…、ワタルくんったらお下品ざんすこと。エルくん将来が心配だわー」
ワタルの目が全然笑っていない最高のスマイルを間近で見たワックスニキビ駄目小僧は、小さく悲鳴を上げてさっさとゲートの向こうへ去っていった。
その後ろ姿を苦笑気味に見つめていたエルは、「ワタルくん怖ーい」と顎に手を当てて白々しくいたという。
何にせよ、ワタルを怒らすと怖いということだ。
<わてが『可愛い』言うても、ワタルはん何も言わへんのやけどなぁ>
<そりゃもう諦めてっからじゃねえの?>
<そうどすな。わてとワタルはんの間には、愛がぎっしり詰まってはりますもんね!>
<駄目だこいつ聞いちゃいない>
むふふとデレる療杏を余所に、豪蓮は呆れて溜め息を吐くのだった。