双世のレクイエム
「もう石でもなんでもいいよね。うん、朱火なら飲み込んでも大丈夫って、俺、信じてるから」
<半ば責任放棄にしか聞こえねえがな。つか、なんで石ころ?>
「昨日の夜、朱火と一緒に散歩行ったら見つけた。で、朱火が『すっごい、綺麗』ってキラキラした目で言うからつい…拾いました」
<お前ほんと甘ちゃんっつーか、なんつーか…>
<ちゅーか何二人きりで出掛けてはりますのん?!わても連れてって欲しかったどすぅぅ~!>
呆れた目で溜め息をつく豪蓮もまた、つくづく昔と変わらない。
拗ねる療杏に「また今度ね」と言って落ち着かせたワタルは、朱火に向き直った。
「えっと、それで朱火から血を…。うぇぇ、やっぱグロ…」
「だいじょぶ!無理矢理にでも突っ込むから!」
「うんごめん朱火さん、それ大丈夫じゃない気がするんだ」
<でも時間がねーぞ。さっさとしねえと、ゲート先であいつらが待ってんだろうし>
そう、ワタルはクエストに向かわなければならない。ここでグダグダしていてもしょうがないのだ。
ワタルは気合いをいれて心を決める。
「っうし、朱火。お願いしますっ」
「うん!いっくよ~…ワタル、俺の愛(血)、受け止めてねっ!」
「え?どういう…」
がぶりっ。朱火が自身の腕にかぶりつき、そのまま皮膚の一部を食い千切った。
「グロッ!」引きつるワタルにもお構い無し、朱火は血だらけの腕を振りかざし、そのまま…。
「れっつごー!」
「えッ、ちょ、待っ…むがふッ?!」
ワタルの口に腕を突っ込み、朱火は無理矢理血を飲ませた。技名をそのままつけるなら【ワーム・タックル】といったところか。
その勢いのまま、二人はゲートに飛び込んでいったという。
ワタルの安否がとにかく心配である。
<あーあーあー。ワタルの野郎、大丈夫かな。赤蛇坊主もなかなかやるな>
<いや感心しとる場合ちゃいますやろ?!はよわてらも追いかけますえっ!>
愛しのワタルを追いかけ、寮杏も続いてゲートに飛び込む。
しばらく考えるふりをしていた豪蓮も、<ま、いいか>と言ってゲートに飛び込んだのだった。
「…頑張れよ、ワタル」
一連の様子を見ていたトリム先生がそう呟いたことは、まだ内緒。
ワタルたちは、知る由もない。