双世のレクイエム
吹き抜ける風。
広がる青空。
微かな懐かしい臭い。
「ここ、…どこ?」
ワタルは今、どこか分からぬ平地にて首をかしげていた。
すぐ近くには、立派な神社。目の前には赤色の鳥居がデデンと佇まっている。
ここが目的地か?
首をせわしなく動かし、ワタルは辺りを見渡す。
ふと、後ろから声がかけられた。
「あっ、ワタル!お前こんなとこにいたのかよ!」
「あ、エル」
鳥居の向こうから走ってくる、金髪のアテンションボーイ。よかった、ちゃんと人がいたとワタルがほっとしたのも束の間に。
ぴたりと、エルはワタルの顔を凝視したまま立ち止まった。
その青い瞳は、大きく見開かれている。
「え、エル…?」
「……。ワタル、お前…。人喰いだったのか?」
「は?」
何を馬鹿なことを。
思いっきり顔をしかめるワタルに、エルもまた顔を渋める。
「だってお前、血…。口の周りにべっとりついてんぞ。おまけに朱火くんの腕が血まみれ…どんなサスペンス起こしたんだよ」
「あー…これは、その、色々と」
「ちっさい子に虐待はよくないぞ?」
「虐待じゃないし!これは契約結んでたんであって、俺だって好き好んで腕なんかかぶりつきたくないっての!」
慌てて袖口で口周りをごしごし拭くワタルにエルは「はいはい」と適当に返事を返す。
そのためワタルは少々膨れっ面だ。
「…で?エルはここで何やってんの。一人じゃん、他の二人は?」
「殺されかけてる」
「へえ、そうな…っはあ?!」
膨れっ面から一変、ワタルの顔は目が落ちそうなほど驚きに満ち、あんぐりと口は開いている。
殺されかけてる?誰が?まさか!
腕が千切れるとは聞いたが、死ぬとまでは聞いちゃいない。
「だっ、誰に?!誰に殺されかけてんの?!」
「ッツ、それが……」
ごくり。
息をのむ。
「緑色のサルに…だ」
「……。はぁぁ?」
ワタルはこの日一番の、間抜けな声を出したという。
緑色のサルとはなんぞ?