双世のレクイエム
鬼ごっこって、あんたら分かる?
あ、そう。分かんのなら話は早い。
俺が鬼やるからさ、兄ちゃんたち逃げてよ。俺に捕まっちゃダーメ。
「捕まったらね、ふつー鬼交代すんじゃん?でも俺の考えた鬼ごっこは、そんなんじゃないわけよ。
捕まったらアウト、罰ゲームぅ~。痛~いお仕置きが待ってんよ☆」
「ば、罰ゲーム?」
「そ、罰ゲーム。そっちのパツキンの兄ちゃんなら分かるよね?どーんなおっそろすぃーい罰ゲームが待ってんのか、ね?」
エルに向かってウィンクをする緑髪のサル少年・ミナイに、エルはサッと顔を青褪めさせた。
それだけでもう、その罰ゲームがどれほど恐ろしいものなのか、経験せずとも分かってくる。
どんな目に合うのか。
好奇心ばかりにワタルがエルに尋ねると、エルは震える声でこう言った。
確実に死ぬ、と。
その一言が、どれだけ重いものか。
ふと、ワタルは思い出す。
初めにここへ来たときのことを。
エルが『他の二人は殺されかけてる』と言ったことを。
ゾッとした。
ああ、本当だ。腕が千切れる危険性が確かにある。いや、それ以上だ。
死ぬかもしれない。
緑のサルに殺されるなんて冗談じゃないと、そう、思ってはいたものの。
目の前に佇む緑髪の少年・ミナイからは溢れんばかりの殺気が漏れているのだから。
ごくりと、ワタルは唾を飲み込んだ。
「ひとつ、聞いていい?」
「なーに、俺のスリーサイズでも聞くつもりー?いやんっ、兄ちゃんたらえっちぃ~」
「違うわ!」
くねくねと身をよがらすミナイに思わず大声が出る。
彼なりのジョークだとわかってはいても、この状況ではそう和やかにもいられまい。
気をとりなおして、ワタルはもう一度ミナイに問いかける。
「俺たちは捕まっちゃ駄目ってのは分かった。捕まったら負けってことでしょ?…じゃあ、どうしたら君たちに勝てる?
俺たちに勝ちの条件が提示されてないって、フェアじゃないよね」
ワタルの問いにミナイはどう答えるのか。
にしゃりと笑ったミナイは、目を光らせてワタルを見る。
「…兄ちゃん、いいとこに気ぃつくね~。うんうん、オツムの良い子って俺、けっこう好きよ。
で、勝ちの条件?だっけ?うはは、そーんなの決まってんじゃーん。
俺らが飽きるまでずぅーっと、永遠に鬼ごっこするんだよ」
「……っ!」
「ず、ずっと?!」
それはあまりにも、ゾッとする『遊び』だった。
『飽きるまでずっと』なんてそんな、まるで子供の戯言だ。
あまりにも馬鹿げてる。
そうは思えど、目の前でニヤニヤと笑うミナイを見れば、これが現実なんだと思い知らされる。