双世のレクイエム
「ほ、ほらぁっ、この子の髪の色よう見てみいっ」
「髪の色…?東洋特有の黒髪だが…」
療杏(りゃおあん)の指す少年の髪は、東洋ではどこでも見られる黒色である。
これのどこが理由になるのか、豪蓮(くおれん)はその形良い眉をひそめてまた療杏(りゃおあん)を睨んだ。
が、またすぐ少年の髪に目を戻すことになる。
否、目を奪われたと言ったほうが正しいだろう。
「なっ…、こいつっ」
「どうやらわてらがぶつかったせいで、こうなってもうたようやねえ。綺麗な黒髪が、わてらんせいで台無しや」
少年の前髪を撫でる療杏の表情は、少年に対する申し訳なさでいっぱいだった。
少年の髪が、紫色になっているのだ。
それはまるで、豪蓮の燃えるような紅髪と、療杏の凍えるような蒼髪を混ぜたかのような、全てを魅了する紫の髪。
幸いなのかどうか、今は毛先だけ紫に染まっている。しかし、時間が経てば完璧な紫に染まるだろう。
「これを見ても、レンちゃんはまぁだ駄々捏ねはりますのん?わてらとぶつこうてもうたこの子は多分、もう…。
今まで通り普通の人生を生きられへん」
「!」
苦渋に顔を歪める療杏に、また豪蓮も驚きに目を見張る。
自分たちのせいで一人の少年の人生を狂わせてしまう。
事故であったにしろ、こうなってしまった結果はもうどうにもならない。
「せやかて、こんまま中途半端にしとくのもあれやん?」
「…は?」
「せぇやぁかぁらぁ~、中途半端にわてらの力の影響受けてもうたんや。この際、ぜーんぶわてら色に染めようや言うとるんどす」
「…い、や。いやいやいや、お前何言ってんだ!それがどういう意味なのかわかってっ…「レンちゃん」
じろりと豪蓮に目を向ける療杏。すると、豪蓮の体がまるで術にかけられたかのようにぴたりと固まった。
「あんたこそ意味分こうとるんかいな。この子を中途半端に放置して、誰かに見つかりそうして殺されてまう。そないな危険性もあるんどすえ。
人生まで奪っといて、今度は命まで見捨てるおつもりですけ」
「っ、だからって…」
「ええ加減にしぃ。レンちゃんも分こうとるんやない?この子が普通の子とはちゃうて、なあ」
「……。」
諭すように豪蓮に語りかける療杏に、今度こそ豪蓮は言葉を無くす。
そう、わかってはいるのだ。
このちんくしゃが普通ではないことを。
自分たちが証明してしまったのだ。