双世のレクイエム

ミナイと同じ緑髪に、ミナイと同じ髪型に、ミナイと同じ背格好に。これはつまり双子なのだろうキカズの容姿に、ワタルは思わずミナイが瞬間移動したのかと思った。

ただ何故ミナイではないと分かったのか。それは彼・キカズが白ゴーグルをしていないからだ。

代わりに、つけているのは白いヘッドフォン。


「兄さんから聞いたよ。君、馬鹿なこと言ったんだね。子供の遊びに妥協なんていらない。
せいぜい生気を抜かれればいいさ」


ほぼ無表情に近い澄まし顔で、そう淡々と告げるキカズ。
しかしミナイの時のような恐怖はなく、彼からは不快さが込み上げてくる。

人を小馬鹿にした言い方というのだろうか。少々ムッとしたワタルは、何か言い返そうと口を開いた。


「君たちこそ、こんな馬鹿げた遊びやってないで、真面目に勉強したらいいじゃん。馬鹿にされる筋合いなんかないし!」


ふんっ、と鼻息荒く腰に手を当てる。どうだ何か言ってみろ、とワタルはキカズに目を向けた。

が、


「……、は?」

「え?」


耳に手をあて怪訝な顔をするキカズに、思わずワタルも声を漏らしてしまう。

どうやらキカズは聞こえなかったらしく、耳に手を当てているのは『もう一度言え』と催促しているらしい。

仕方なしに、ワタルはもう一度口を開く。


「だから、こんなくだらない事してんなって言ってんの!」

「……。」

「……。」

「……、はい?」


ブチッ。ワタルの血管が切れる。

『いい加減にしろよ人の話聞かんかいゴルァ』と脳内でぐるぐる怒りの言葉が渦巻くなか、キカズは極めつけに

「聞こえないんだけど」

と、あっけらかんとして言う。

これにはワタルもぷっつりぶっつん。隣でエルが「お、落ち着けよっ」と宥めるが、今のワタルは落ち着くなんてとても出来ない。


「『聞こえない』、だぁあ?そりゃ君、ヘッドフォンつけてガンッガンに音量上げてっからでしょうねえ、えぇえぇ。それで?あろうことか?何度言えば?気がすむと?
…はっ、ははっ、はははははっ。君、ふざけてる?ふざけてるよね?ねえ?」

「だから何?聞こえないって」

「…ッツ、テメェ…っ」


「ちょ、ワタルさん?!二人称変わってますけど怖ーッ?!」


完全にキレたワタルに悲痛の叫びを上げるエルは、体を抱きしめて震えを抑えようとする。

その間もワタルの血管はブチブチと切れ、キカズもまた「え?何?なんて?」と尋ね続ける。

ああ、ワタルのオツムが大変だ。
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