双世のレクイエム

一方、その様子を見ていたエルは、これでもかというくらい目を大きく見開いていた。
比喩を使うなら、目を皿にして、だろうか。

「すっげ…」

【憑かれや】ということは昨日出会った時に聞かされていた。しかし、だ。これほど強大な力を持っているとは夢にも思わなかったのだ。
これは心強い味方だ、と思う反面。敵に回せば厄介だなとエルは唾を飲み込む。

その向かいでは神猿兄弟のキカズとイワナも目を大きく開かせ、わなわなと震える手でワタルを指差す。

言葉にならず、「な、な、なっ…」と自立しない語句を口から漏らしては、兄弟二人揃って顔を青褪めさせていた。


「な、なんでっ、なんでここに『あの人』がっ…!」

【聞いてないんだけど!まじありえないっていうかぁ~!】


何故かあたふたと慌てる神猿兄弟。二人の様子をチラリと目の端で捕らえ、ワタルに憑いた豪蓮はにたりと口角を上げる。

それはまるで、泥棒が我ながらすばらしい完全犯罪だと思いついた時のように、悪くもいい笑顔だった。


「よう、サル共。俺様のこと覚えてっか?この姿でも、紅力ばりっばりに感じんだろう」

<相変わらずちまこいサルどすなぁ>

「…リャオ。お前その姿(浮遊霊状態)じゃあいつらに見えてねえだろ。いつも通り実体化してろよ」

<あ。それもそやね>


ほいっ、と声をかけて療杏はくるりと回る。と、同時にその体が実体化した。
これでもうみんなに姿が見えるだろうと。

療杏の姿も見えるようになり、神猿兄弟はさらに驚きに目を見張る。
エルも同様、人が急に現れたのだから驚きもするだろう。

いや、そもそも『人』なのか?この気からして、あの二人は人間じゃないのでは…。
エルは顎に手を添え考えた。

その間にも、神猿兄弟と憑きもの二人の会話は発展していく。


「…信じられない。あなた方のような者が、凡人に近いショタに跪くなんて」

【クオさん腑抜けになっちゃった?リャオさんたぶらかされ…ちゃったんだねショタコンだもんね】

「失礼なサルどすな。今はわてもワタルはん一筋どすぇ」

「たぶらかされたことは否定しねーのな」


せめて第一にそこを否定して欲しかった。

呆れる豪蓮に、療杏は頬に手を当て「だってワタルはんかいらしいもんっ」とデレるデレる。
(※かいらしい=可愛い)

見事に落とされた療杏に、キカズとイワナはあんぐりと口を開けた。

こんなのリャオさんじゃない。
自分たちの知っているリャオさんは、もっと凛々しくてカッコいい人だった。なのに。


【うわーん俺たちのリャオさんががががっ】

「…世界ってば広いな」


うぇえんっ、泣き真似をするイワナ。
はぁぁ、呆れて他を言えないキカズ。

それを見た豪蓮は笑いを隠すこともせず、ものの見事に腹を抱えて噴き出した。

「リャオのショタ好きなめてんじゃねーぞっ」ぎゃはははっ!
豪快に笑う豪蓮は、もはや目に涙を浮かべていたという。

どうやらリャオの過去を知っている者に、現在の醜態を見せることが楽しいらしい。
いっそ地獄に落ちればいいと思うほど、豪蓮は最低なことに笑い続けるのだった。
< 64 / 93 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop