双世のレクイエム

というか一体、妖怪二人と神猿兄弟の関係は何なのだろうか。
過去に面識があるということは分かるが、それ以下も以上も分からない。

とはいえ、現在の問題は、そこではないのだ。


「おい、サル共。この俺様が選んだ奴に傷つけようとしたらしいな。いい度胸じゃねえか」

【クオさんの主に傷つけるわけないだわさ!】

「…傷つけるだなんて、人聞きの悪い」

「人聞きの悪い、だあ?っはん、貴様がそれを言うか、それを。
耳が聞こえねえくせに、何言ってやがんだ」

「えっ?!」


耳が聞こえない。
誰が?キカズが?

混乱するエルの頭だが、しかし反面なるほどと納得する部分もある。

そうか、耳が聞こえないのか。だから、ワタルに何度も聞き返していたんだな。

成る程成る程と頷くエルはふと、「ん?」と首をかしげた。


「耳が聞こえなくて、ヘッドフォン?言葉にしない代わりに、紙に書いてマスク…? あっ!も、もしかしてっ」

【おろろ。あなた今気づいたのね、ばっかぁん】

「笑うな!って、そうじゃなくて!お前ら神猿兄弟って、『三猿』から生まれた分身なのか?」

【ぴんぽーん。そそ、ぼくたち三猿モチーフの、神猿兄弟だおだお】


ぴーす。二本指を立てて無表情でポーズをとるイワナに、やっぱりそうかとエルは大声をあげる。


三猿とは。
それは、『見ざる、聞かざる、言わざる』のそれぞれポーズをとったあの有名な猿のことである。

長男ミナイは『見ざる』
次男キカズは『聞かざる』
三男イワナは『言わざる』

だから、ゴーグルで目を覆ったり。ヘッドフォンで音を遮断したり。マスクで口を隠したり。

つまりは、そういうことなのだ。


「だから『猿の子の相手』…。先生方も考えたなあ!」

「ま、わてらはなんとなーく予想してはりましたけどなぁ」

「『猿の子』っつってる時点で、まあ見当はついたよな」


うんうんと頷き合う三人衆。

傍らではイワナがスケッチブックにぐしゃぐしゃとペンを走らせ、キカズは聞こえないがために、ただ苦い顔で突っ立っている。


どうにもこうにもこの状況。誰が打破するかと思いきや、にやりと笑った豪蓮によって空気が一瞬にして固まる。


「さぁてサル共、一体どこから潰されたい?」


嗚呼、きっとワタルの性格が悪かったら、こんな顔をするんだろうな。

人知れず、エルは苦い表情で顔を引きつらせるのだった。
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