双世のレクイエム
「…で?どういう意味なの」
ひりつく頭を押さえ、涙目ながらもワタルは豪蓮を見上げる。
豪蓮は腕を組み、偉そうにしながらも「しょうがねーな」と言って腰に左手、右手は人差し指をぴんと立てて口を開いた。
「馬鹿なテメェのために、わっざわざこの俺様が説明してやるよ」
カチンっ。
誰が馬鹿だ、誰がっ。
思わず出かけた言葉を飲み込み、ワタルも大人しく豪蓮の言葉に耳を傾ける。
無論、不本意ながら。
「前に言っただろう?テメェの力は俺様やリャオの力が合体して、強大ながらも凶悪なもんになっちまったってなあ」
「レンの性格の方が凶悪だけどね…」
「なんか言ったか」
「イエベツニ」
俺のような馬鹿の戯言は聞き逃してくださーい。
ぷーいっ、と顔を逸らすワタルに方眉を上げる豪蓮だったが、「まあいい」と話を続けた。
「で、だ。テメェの…っとと、ちょっと失礼するぜ」
「へ?」
ぱちんっ、と豪蓮が指を鳴らす。と同時に、傍で話を聞いていたエルの体が、ガクンっと地面に崩れ落ちた。
いきなり何をするのだ。
エルは関係ないだろうとワタルが強ばった表情で批判すると、豪蓮は眉間にシワを寄せた。
なぜ俺様がそう言われなければいかんのだと、不満たらたらのご様子だ。
「関係ねえからこそ、眠らせたんだろうが。この話は俺様とリャオ、そしてテメェだけしか関係ねえ」
「だからって急に術かけるなんてっ…!」
「じゃあ、そうやってテメェは『関係ねえ奴』を、『関係ねえこと』に、巻き込もうってのか?
ええ?そりゃお門違いってもんじゃあ、ねえのかよ、ワタル」
「うっ、そ、それは…」
「いいから餓鬼は、黙って俺様の話を聞いてろ」
勝手に早とちりしてんじゃねえよ。
ぶっきらぼうに呟いた豪蓮は、これだから餓鬼は嫌いなんだと溜め息をつく。
その豪蓮の言葉にワタルが少しうつ向けば、それまで隣でジッと大人しく話を聞いていた療杏が、そっとワタルに耳打ちした。
「レンちゃんはああ言ってはりますけど、ワタルはんのことは、少なくとも嫌っとりませんえ」
「!…そう、かなあ?」
「ふふっ、そやさかい、わてもワタルはんのこと、だーい好きですもん。誰がワタルはんのこと好いてはんのか、一目で分かりますえ」
「リィ…」
そう言ってウィンクをする療杏に、ワタルは少しばかり心が軽くなった。
もっとも、
「ま。分かった途端、潰してやりますけど」
「……。」
これさえ無ければの話だが。
「ワタルはんはどこそかの誰やぞに渡しまへんで~」と笑顔で口にする療杏に、つくづく療杏がヤンデレに染まってきたなと、ワタルは密かに思うのであった。