双世のレクイエム
「っ、わかった…」
「おおきに」
歯切れ悪く了承の意を出した豪蓮(くおれん)に、感謝の意を込めて療杏(りゃおあん)は微笑んだ。
「(ほら、なんだかんだ言うてもレンちゃんは優しいんどす)」
「…にやにやすんな。気持ち悪りぃ」
「はいはい。そんな赤うならんでええんに。可愛ええなあ」
「黙れショタコン野郎」
からかう療杏にせめてもの意で言葉を吐くと、豪蓮は腕をまくって少年に近づいた。
半分が紫に染まりつつある黒髪に目を向け、豪蓮は、すぅ、と息を吸う。
療杏も同じように少年に向かい腕をまくり、すぅ、と息を吸った。
「おはようさん」
明け方。少年を揺り起こした療杏は、起きるなりに朝の挨拶をかけた。
少年も一度口を開いたが、すぐに口を閉じる。どうやら喋れないことを思い出したらしい。
それを見た豪蓮が呆れたように溜め息をつく。
「何やってんだ。もう喋れるだろう?」
「え、……あ」
掠れた声が出たものの、声が出たことに安堵したらしい少年は、ほっと息を漏らしほころんだ。
その様子を見ていた療杏も顔をほころばせ、少年の背に手をそえて起き上がらせてあげた。
さて、何から話そう。
そう思案するも、まずは自己紹介からだろうと口を開く。
「さ、ここいらでなんぼしよっても仕方あらへん。わての名前は【療杏】(りゃおあん)。よろしくどす」
「え?あ、はい…。よ、ろしく」
戸惑いながらそう返事をする少年・ワタルに容赦なく、今度は紅髪の豪蓮が自己紹介を始めた。
「俺の名前は【豪蓮】(くおれん)。お前に興味が湧いた。これから俺様のためだけに生きてもらうぞ。その命、いつか俺が頂戴する」
「はいよろしく…って、えええっ?!」
いきなりの奪命宣言にワタルは驚声を響かせた。あんぐりと口を開けたワタルは間抜け面だった。
ワタルは知らないだろうが、豪蓮はワタルにさほど興味を持っていなかった、というか世話をすることにも反論の意を示していたのだ。
それが何故こうなったのか。それは療杏と本人しか知り得ない。