双世のレクイエム
ご愁傷さま、無南三。と心の中で呟いておいた。
と、それまでケラケラと笑っていた療杏の体がビクリと震える。
何があったのかと顔を覗き込めば、先程の神猿兄弟同様に、顔が引きつっていた。
「リィ…?」
「ッツ、わ、ワタルはんっ。後ろ向いたらあきまへんでっ!」
「へ?後ろ?」
後ろに一体何がいるのか。振り向きたいが、療杏が振り向くなというのだから、仕方がない。
代わりに豪蓮がチラリと背後に視線を向けると、ぎょっとした顔で肩を震わせた。
「お、おい…。なんかめっちゃ見てんぞ、あそこに隠れてる黒髪の坊主。テメェの知り合いか?」
「黒髪…?黒髪の友達なんて、こっちの世界にいないけど。っていうか見てるって、」
「ものごっつ視線感じますわぁ…。はぁぁ、なんでここで会うかいな」
「なんだ、リャオの知り合いかよ」
そう言ってもう一度、豪蓮が視線を向ける。
その視線の先には、黒髪の青年・クロイが草影に隠れてジッとこちらを見ていた。
ワタルも恐る恐る、目だけを背後に隠れている青年に向ける。
するとまぁ、紅潮した頬の青年が、誰でもない療杏を見つめているではないか。
「あの人すっごい見てる。すっごいリィのこと見てるって」
「なんだなんだ、お前まさか惚れられてんじゃねえの?くくっ、ショタコンがまさかストーカーされるほど好かれるとはな。傑作じゃねえか!」
「笑い事やありまへんて…。ちゅーか、背後の青年とは面識あらへんて。ただ、わてがワタルはんに…」
そこまで言いかけ、ハッとして療杏は口をつぐんだ。
ちょっと待てよ?
わてがワタルはんに憑いたときに見られとったんや言うねなら、あの青年が惚れたんは……。
それはマズい。
「…リィ?どうかした?」
「ぼけっとしてんじゃねえぞ」
二人がしきりに声をかけてくるが、それどころではない。
もし、あの青年がワタルのことを好いているのだとしたら?
しかも、長い白髪時のワタルを見たのだとしたら。
「……。(えらいことなりましたなぁ)」
少し。いや、かなり面倒臭い事態となった。