双世のレクイエム
何が起こって何が収まって、一体何が起こったのか。一体何がこうなったのか。
ガチガチに固まった体と思考回路が、血流をぴたりと止める。
動揺と放心を繰り返すワタルに、豪蓮は珍しくワタルの頭を撫でた。
「神猿兄弟ってのは不思議なもんでな。『役目』を終えるまで絶対に死なねぇようになってる。
例え心臓が止まったとしても、例え魂が抜けちまったとしても、必ずまた蘇生しちまう。
ある意味、厄介なアホ兄弟だよ」
「……。」
「ワタル、テメェも疲れたろう?クエストはクリア。充分テメェは『遊んだ』。今はもう、寝てろ」
そう言って豪蓮がワタルの瞼にそっと触れると、ワタルの体がぐらりと揺れた。
かくん、と療杏の胸に体を沈めたワタルは、すやすやと寝息をたてて意識を手放したのだった。
「…リャオ。帰ったら、話がある」
「わかってますぇ。わても、気になることあるさかい」
二人の妖怪は険しい顔をして、青褪めた顔のワタルに目を向ける。
対する神猿兄弟はいつの間にか、その場からすっかり消えていた。
一方のクロイ。彼もまた、険しい表情で現場を睨んでいる。
一部始終を見ていたわけだが、クロイはある引っ掛かりを覚えた。
「(紫の髪?いやまさか、あの少年は…)」
そんなこと、あるはずがない。
首を振って考えを捨て、クロイはその場から静かに退いた。
「(紫髪なのは偶然だ。もしあの少年が『あれ』に関わっているとするなら、)」
険しい顔での考えも、我ながら馬鹿なことを考えたと自嘲気味の笑みに変わる。
もしそうなら、とっくに世界は終わっている。
ふう、と息をついて、クロイは踵を返したのだった。
「し、死ぬかと思った…」
所変わり。
ぜぇはぁと息を荒くし、エルの妹・キリは境内の中から這いずり出てきた。
その隣ではぐったりと青褪めるザックの姿も見られる。
あれから、エルが目覚め神猿兄弟がいないことを確認すると、行方不明の仲間を探して神社中を歩き回ったのだ。
勿論、ワタルは眠っているため豪蓮におぶられている。
本当は療杏がおぶろうと思ったのだが、まだ傷がヒリつくらしいため豪蓮に却下された。
そして探し歩いた結果、キリとザックの悲鳴が境内から聞こえたおかげでこうして見つけられたという。
ついでに神猿兄弟も境内にいた。
「うははっ!今日は楽しかったぜ、また相手してくれな~」
「「二度とするか!」」
声を揃えて拒否するエルキリ兄妹に、ミナイはまた『うはは』と笑った。
ワタルとのことなんてまるで無かったかのように、ミナイは平然と輪の中心にいる。
どこか嬉しげに見えるのはきっと、弟が傍にいるせいだろう。
豪蓮曰くブラコンらしいミナイは、弟がぶっ倒れる度にああして暴れるという。
しかし神猿兄弟は不死。
暴走の被害を受けた側にとっては、骨折り損だというものだろう。
だが今回のクエスト。
その骨折り損がクリアに繋がるというのだから、どこか複雑だ。
未だ眠っているワタルの寝顔を横目に、エルは不安気な顔で息をついた。