双世のレクイエム
ともあれ、こうして無理矢理傍に置くことを決めた二人であったが、ワタルの気は治まらない。
「む、無理に決まっ、うえほげほごほっ」
「あらあら、ようやっと喋れるようになったさかい。せかして口利こうもんなら喉に負担かかってもうて、まぁた喋れんようなりますえ」
「ず、ずびまぜ…げほ」
咳き込むワタルの背をさすってやると、療杏に向けていた目を今度は豪蓮に移した。
しかし豪蓮は反論の意を許さんとばかりにそっぽを向くだけで、ワタルと目も合わそうとしない。
ひくっとひきつる頬に、ワタルが豪蓮に少なくとも良い印象を持っていないことは明らかである。
その様子を見ていた療杏も、「まあまあ」と言ってワタルを宥めた。
「堪忍しとくれやすな。不器用なお人やて、ほんまは優しいんどす」
「う、あ…療杏(りゃおあん)さんがそう言うなら…」
「おおきに」
微笑みワタルの頭を撫でれば、ワタルもどこか安心したように目を瞑った。
しかし、それを面白くなさそうに見ていた輩が一人。
豪蓮は「チッ」と舌打ちをかましてずかずかと二人の間に割って入った。
「おい、いつまでそうしてんだ。さっさと行くぞ」
「へ?い、行くってどこに…」
「俺らの家!」
そう言うなり指をパチンっと鳴らした豪蓮はどこかへ消えてしまう。
ワタルも人が消える光景を見てしまい、驚きに目を丸くするばかりだ。
「消えた……」
「まったく、レンちゃんたらなーんも言わんと行くんやから。いけずなお人」
呆然とするワタルの隣では療杏(りょうあん)もぷりぷりと怒っている。
なにも言わずに、ということは、やはり何か事情があるのだろうかと思考を巡らすワタルに、今度は静かな声で療杏が語りかけた。
「…ワタルはん、覚悟はおあり?」
「か、覚悟?覚悟ってなんの…」
当然戸惑うワタルは『覚悟』というワードだけでなく、『何故この人は自分の名前を知っているのか』という問題にも反応を示していた。
しかし真剣な目をして見つめる療杏の顔を見れば、そんなこと、どうでもよくなっていた。