双世のレクイエム
食堂に着いた一行を待っていたのは、エルの強烈な『あの』挨拶だ。
「ワタルーっ!」
「うわあああっ?!」
新人研修会の朝時と同じように、腕をバッテンにして飛び込んできたエル。
なんとか避けたものの、これは心臓に悪い。
心臓辺りを押さえながらワタルは苦い顔をするのだった。
エルの激しい独特の挨拶もそこそこに、ワタルたちは昼飯を受け取って空いている席に座った。
ほかほかと湯気のたつ親子丼は、寝ていただけのワタルの食欲すら湧き起こす。
「いただきます」手を合わせて箸を手に取り、卵に包まれた鶏肉を口に運んだ。
うまうまと口を動かすワタルを横目に、エルも大盛りスパを口に運ぶ。うまっ。
「…で。その探るような目ぇ向けるのやめてくれる?エル」
「んんん~、なーんのことだか」
「とぼけないでよ。ジロジロ見られると、食べづらい」
そうは言いつつ食べる手を止めないワタルは、じろりと上目でエルを睨んだ。
「おお怖い」肩を竦めるエルも、しばらく間を空けてからフォークをテーブルに置く。
「さて、こちらの目論見はバレたようだし。一体何から話そうかねぇ」
「飯が不味くなる話はしないでよ」
「へいへい。ワタルくんのお耳は汚させませんって」
ニシシと歯を見せて笑うエルに、それでもワタルは笑みを返さない。
ただジッと、視線を合わせるばかりだ。
怖い怖いと息をつくエルも、ようやく本題に入る。
「ワタル。単直に言わせてもらう。
…ノイジー・ファイトに出てくれっ!」
「……、は?」
ノイジー・ファイト?
それは一体なんぞやもし?
箸をくわえたまま首をかしげるワタルに、「あのさあ」とエルは苦笑いをする。
「実はこの前の新人研修会で、色々難儀なクエストがあったわけじゃん?」
「…まあ、」
新人研修会のことをあまり思い出したくないワタルは、あからさまに嫌な顔をする。
慌ててエルが取り繕うように話を続けた。
どうやらそのノイジー・ファイト。
学園名物の学生バトルらしい。
元よりここはエリート校。エリートを育成するために、そういった鍛練に必要な行事も多く行われるという。
それで、エルはワタルにそのノイジー・ファイトなるものに出て欲しいと懇願しているわけなのだが。
「なんで俺なの?俺、正直言ってそういう行事があることも知らなかったし。…なんか、面倒臭そう」
「うんうん、最後のは本音じゃなくてジョークだよってエルお兄さんは信じてるゾ」
「……。」
「頼むからそんな顔すんなってワタルぅ!これには色々とワケがあるんだしようっ!」
「ワケ?ああ、そう言いつつ下心がバレないよう安全策である建前のアレ?」
「どうしてそんなに歪んじゃったのワタルくん、お兄さん寂しい」
ぐすん、と泣き真似をするエルに、「うざい」とワタルは舌を出すだけだった。
というか、話逸れてる逸れてる。