双世のレクイエム
「そしてここからが本題。そのクリアしたチームこそ、次期エリート候補、みたいなみたいな?だから教師陣は期待してるんだよ。
そこで、クエストをクリアした次期エリート候補の俺たちは今注目されている。だったら俺たちもアピールしなきゃいけない」
アピールしてアピールして、そうして将来設計をより確実なものにするために。
そのためにこの学園では実力を発揮しなければならない。
今もそう。
『どこで』『誰が』見ているのか、分かりやしないのだから。
「…つまり、ノイジー・ファイトに出て目一杯暴れろってこと?」
「語弊があるなあ。ま、そんなとこだ」
「でもそれって、俺が出るだけじゃエルたちの面目は施されないじゃん。なのになんで俺?エルが出ればいいのに」
そこが分からない。
エリート候補といえど、いや、だからこそ一人一人がライバルになるはず。
それなのに敢えて他人を推薦するエルはどうかしてるんじゃないか。
顔をしかめて疑問を投げるワタルに、「ちっちっち、」と舌を鳴らしてエルは指を振った。
その顔には、意地悪そうな笑みが浮かんでいる。
「なあワタル。先生方は何のために、俺たちにチームを組ませたと思う?」
「えっと、そりゃあ…個人にクエストを与えるのは、未熟な新入生にはまだ早いと思ったから…とか」
「なるほどね。ワタルはそう思ったか。まあそれも一理あるかもしれない。
けどな、ワタル。
この学園の教師陣は、そんなに甘やかしちゃあくれないぜ?」
ニタリと浮かんだ笑みのまま、エルは椅子に背を預ける。
どういう意味だと尋ねても、エルは黙って笑みを浮かべるばかりだ。
仕方がなしにジッと待ち続ければ、ようやっとエルが体を起こす。
そのまま天井を仰ぎ、息を吐いてから、やっとエルは口を開いた。
「―――からだよ」
「えっ?」
ぽつりと。
あまりに早口で小さな声だから、ワタルはうまく聞き取れなかった。
おまけに食堂は煩く騒がしい。
もう一度言ってくれないかと身を近づければ、今度はハッキリした声でエルはこう言った。
「俺たちは、未来のための人柱だからだよ」
刹那、食堂がシンと静まる。
まるで嵐の前の静けさのように、ワタルにはこの静寂が恐ろしく感じた。
そして、同時にこう思う。
―――聞かなきゃよかった、と。