双世のレクイエム

そして気づく。

今自分の周囲が静寂に満ちているのは、何も比喩じゃない。

本当に食堂全体が、時を止めたように音1つ発さないのだ。

何事かと動揺し、つう、と冷や汗が首筋を伝う。その時だった。


「あれぇ?どうしてみんな静かにしてーんのぉ?何事なにごとっ?」


足元まで伸びた白髪を揺らす少女が、首をかしげて入り口に立っていた。

その無邪気な様子とは裏腹に、食堂にいる全員が彼女を見て固まる。

そのあからさまなみんなの態度に、ワタルは根拠もなくふと思った。


もしかして彼女は、クエストをクリアしたチームの一人なんじゃないか、と。

その予感は的中する。


「ああ、もしかしかしものみなさん勘違いしちゃってる?にはは~、だいじょーぶだよ。だいじょーぶ。

私はヒトを、喰わないから」


「……っ!」


ゾクリと、ワタルの背筋が凍った。

今あの少女は何と言った?
ヒトを喰わない?
それは当たり前だろう。
なのに彼女は敢えて言う。

それはつまり…?

震えるワタルの隣では、おなじくエルも顔を青褪めて少女を見つめていた。

そして無理矢理、口角を上げてこう言った。


「彼女は【オリト】。第3グループの重戦力。…ノイジー・ファイトで最も当たりたくない相手だな」

「そ、それってどういう」

「どうもこうも、そのまんま。
あいつはヒトを、喰いかねない。現に前回のクエストじゃあ、第3グループと同じクエストを受けていたグループの全員が、重症的なトラウマを負ったらしいぜ。『あいつ』のせいで」


トラウマを負った。ということは、彼女は何かしら仕掛けたということだろうか。

見つめる先にいる少女はニコニコと笑うばかりで、とてもじゃないが有害そうには見えない。
最も、先程の発言で十分に危険性は高まったが。

そしてジッと見つめていたせいか、彼女がこちらに視線を移した途端、ばっちりと目が合ってしまった。

マズイ、と思うには遅かった。

光の速さでこちらに駆けてくる少女を前に、ワタルたちには逃げる余地もなかったという。


「ねぇねぇ、君たち第8グループの人だよねぇ?会えて嬉しーなー!」

「…えっと、なんで分かったの?」

「そりゃ分かるよぉ!だって私には、チョーきょーりょくな、パートナーがいるんですからね!
ミケちゃん、カっモぉーン!」


ぱちんっ、と白髪の彼女・【オリト】が指を鳴らせばどこから現れたのか、水色の髪をした少女が現れた。

どうやらこの子が【ミケ】らしい。
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