双世のレクイエム
@2:ダブル・スケアード
*
成り行きで仕方なくだが、引き受けたものは最後まで筋を通さねばならない。
それが責任というものだろう。
出場すると、そうはっきりエルに伝えれば奴は満面の笑みで「ラジャ!」と言って去っていった。
どうやら既に出場登録の手続きは済ませてあったらしい。
…ハメられた?
「っていうか、結局エルのあの言葉の意味、聞きそびれちゃったなー」
<ああ、人柱の話か?>
食堂で昼を済ませ、授業のために教室へ向かう途中。
幸い廊下の人口密度が低いため、こうして堂々とワタルは豪蓮たちと喋っていた。
「そうそう。物騒な話だよね。…でも、逆に興味出てきたかも。レンは知ってたの?」
<まあな。何年この世界で生きてると思ってんだ。今まで何人もの人柱を見てきたぜぇ? あの恐怖に満ちた表情を見る度、喉が渇いて仕方がなかったしなあ>
「ちなみにそれはどういう意味で…」
<恐れ震えるヒト共を喰らいたいと思った>
「悪趣味」
吐き捨てるように言葉を叩きつけ、ふよふよと浮かぶ豪蓮を睨む。
人を喰らうだなんて、それではまるで…。
「あ。」
ふと、ワタルは足を止めた。
脳裏に浮かぶのはあの少女、オリトだ。
「そういえばオリトちゃんも言ってたよね。人を喰らう喰らわない云々って。あれは…」
<そのまんまの意味だろうな。現に、あの女からは確かな血の臭いがした>
「……まじ?」
<まじまじ、大マジ。ちなみに言うけどテメェからもするぞ、ワタル>
「げッ!」
うそー?!、と頭を抱えて叫ぶワタルに、豪蓮は意地悪な笑みを浮かべてにしゃりと笑う。
<俺様にとっちゃあ悪臭には感じねえけどな。むしろ芳しい>
「やめてやめてその言い方なんかヤダ」
もう聞きたくないとばかりに耳を押さえるが、豪蓮はまだ言葉を続けようとする。
今度こそ聞かまいと耳を強く塞げば、豪蓮がすぐ耳元まで顔を寄せてきた。
「あーあーっ!もう聞きたくなーいぃーっ!やだやだグロはちょっと無…」
<聞け、ワタル>
真面目なトーンボイス。
それが耳にふっと入ってきて、聞きたくないのに耳を塞ぐ力を緩めてしまう。
その緩んだ合間を見て、豪蓮はそっとワタルの手を耳から外した。
今度は笑みなどなく。
真剣な表情で見つめてくる豪蓮に、ワタルは大人しく耳を傾けた。
<ワタル、よく聞け。あの女からは確かに血の臭いがした。それとテメェからも。だけど種類が違う。テメェのはテメェ自身の血の臭い。何も他人の血を被ってるなんざ言ってねえ。
もっとも、あの女からは別モンの臭いがしたがな>
「ッツ、…じゃあやっぱり、あの子は人を…」
<いや、喰ってねえよ。確かに血の臭いはしたが、ありゃ人の血の臭いじゃねえ。もっと強烈な、悪どいもんだ>
だから安心しろ。
柔らかな笑みを浮かべて、ぽんと頭に手を乗せる豪蓮に、ワタルもいつの間にかホッと息をついていた。
人を喰っていない。
すなわち、人殺しではない。
それが聞けたならば安心だ。
しかし、…。
「……。」
<ワタル?>
「…ううん、なんでもない」
本当に、なんでもない。
本当の気持ちは隠すから。
曇り顔のワタルに豪蓮は首をかしげる。
知る由もないだろう。
まさかワタルが、
彼女(オリト)が人殺しじゃないと聞いて、残念に思ったなんて。
「……。(ああ、醜いなぁ)」
知る由も、知るはずも、ない。
成り行きで仕方なくだが、引き受けたものは最後まで筋を通さねばならない。
それが責任というものだろう。
出場すると、そうはっきりエルに伝えれば奴は満面の笑みで「ラジャ!」と言って去っていった。
どうやら既に出場登録の手続きは済ませてあったらしい。
…ハメられた?
「っていうか、結局エルのあの言葉の意味、聞きそびれちゃったなー」
<ああ、人柱の話か?>
食堂で昼を済ませ、授業のために教室へ向かう途中。
幸い廊下の人口密度が低いため、こうして堂々とワタルは豪蓮たちと喋っていた。
「そうそう。物騒な話だよね。…でも、逆に興味出てきたかも。レンは知ってたの?」
<まあな。何年この世界で生きてると思ってんだ。今まで何人もの人柱を見てきたぜぇ? あの恐怖に満ちた表情を見る度、喉が渇いて仕方がなかったしなあ>
「ちなみにそれはどういう意味で…」
<恐れ震えるヒト共を喰らいたいと思った>
「悪趣味」
吐き捨てるように言葉を叩きつけ、ふよふよと浮かぶ豪蓮を睨む。
人を喰らうだなんて、それではまるで…。
「あ。」
ふと、ワタルは足を止めた。
脳裏に浮かぶのはあの少女、オリトだ。
「そういえばオリトちゃんも言ってたよね。人を喰らう喰らわない云々って。あれは…」
<そのまんまの意味だろうな。現に、あの女からは確かな血の臭いがした>
「……まじ?」
<まじまじ、大マジ。ちなみに言うけどテメェからもするぞ、ワタル>
「げッ!」
うそー?!、と頭を抱えて叫ぶワタルに、豪蓮は意地悪な笑みを浮かべてにしゃりと笑う。
<俺様にとっちゃあ悪臭には感じねえけどな。むしろ芳しい>
「やめてやめてその言い方なんかヤダ」
もう聞きたくないとばかりに耳を押さえるが、豪蓮はまだ言葉を続けようとする。
今度こそ聞かまいと耳を強く塞げば、豪蓮がすぐ耳元まで顔を寄せてきた。
「あーあーっ!もう聞きたくなーいぃーっ!やだやだグロはちょっと無…」
<聞け、ワタル>
真面目なトーンボイス。
それが耳にふっと入ってきて、聞きたくないのに耳を塞ぐ力を緩めてしまう。
その緩んだ合間を見て、豪蓮はそっとワタルの手を耳から外した。
今度は笑みなどなく。
真剣な表情で見つめてくる豪蓮に、ワタルは大人しく耳を傾けた。
<ワタル、よく聞け。あの女からは確かに血の臭いがした。それとテメェからも。だけど種類が違う。テメェのはテメェ自身の血の臭い。何も他人の血を被ってるなんざ言ってねえ。
もっとも、あの女からは別モンの臭いがしたがな>
「ッツ、…じゃあやっぱり、あの子は人を…」
<いや、喰ってねえよ。確かに血の臭いはしたが、ありゃ人の血の臭いじゃねえ。もっと強烈な、悪どいもんだ>
だから安心しろ。
柔らかな笑みを浮かべて、ぽんと頭に手を乗せる豪蓮に、ワタルもいつの間にかホッと息をついていた。
人を喰っていない。
すなわち、人殺しではない。
それが聞けたならば安心だ。
しかし、…。
「……。」
<ワタル?>
「…ううん、なんでもない」
本当に、なんでもない。
本当の気持ちは隠すから。
曇り顔のワタルに豪蓮は首をかしげる。
知る由もないだろう。
まさかワタルが、
彼女(オリト)が人殺しじゃないと聞いて、残念に思ったなんて。
「……。(ああ、醜いなぁ)」
知る由も、知るはずも、ない。